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「有希子が、この部屋にはお化けがいるんじゃないかって怖がってるんだよ」
「ちょっと!」
茶化す孝夫を窘めるように有希子は軽く睨む。しかし三宅は笑うことなく、なにやらスマホを取り出した。
「有希子さん、事故物件サイトって知ってますか?」
「あぁ、名前だけ聞いたことがあるような」
「ちょっとここの住所を検索してみたんですけど、ほら」
そう言って三宅が画面を有希子に見せる。エプロンの裾を握りしめながら、有希子はその画面を覗いてみた。
有希子は元来、ホラーの類は苦手である。どうか怖い画像など映っていませんようにと願いながら目を向けると、そこには地図アプリのような画面しかなかった。しかし点々と、炎のマークが散っている。そしてそれは、有希子たちが住むマンションの上にも存在していた。
「これって、もしかして……」
「あぁ、でもこの部屋じゃないですよ。ほら」
三宅が炎のマークをタップしてみると、詳細が現れる。そこにはいつどのようにして人が亡くなったかが記載されていたが、それは有希子たちが住む四階ではなく三階の話だった。しかもその部屋はマンションの端の方にあり、あまり関係がなさそうに思える。
「だから安心していいと思いますよ」
「あ、ありがとうございます」
「いいえ。でも……」
そこで言葉を切って、三宅は口元を手で隠す。その目は細められ、笑っているのがわかった。子供っぽいとでも思われたのだろうか。しかしそれにしては、その視線は何か気になる。その正体を掴めずにいると、三宅が有希子にこう言い放った。
「怖がってる有希子さん、とても可愛かったです」
その言葉に思わず、鳥肌が立つような感覚に襲われた。孝夫の手前愛想笑いはしておくが、どうにもぎこちなくて仕方がない。それに三宅が気づいたのかどうかはわからないが、にっこりと笑ったまま有希子の前からテーブルへと移動していった。
四人掛けの小さなダイニングテーブル。二人で使うにはちょうどいいが、三人だと少し狭い。そのテーブルの一番玄関から遠い椅子が、三宅の定位置だった。部屋全体を、ひいては隣の寝室まで見渡せるその場所は、なんだか品定めをされているみたいであまり好きではない。しかしもう勝手知ったる気安さで、三宅は自分の正面の椅子に鞄を置いていた。
「なぁ、なんかツマミになるもん作ってくれよ」
肝心の孝夫はと言えば、冷蔵庫に頭を突っ込みながらそんなことを言っている。かと思えば缶ビールだけ何本か取り出して、自分もさっさとテーブルへとついてしまった。
有希子はこの三宅の距離の近さに違和感を覚えるも、特に意味などないのだろうと自分に言い聞かせる。考えすぎだ、きっと誰にでもこうなのだろう。有希子は余計なことを考えないようにと頭を軽く振り、冷蔵庫に何があるかを確認し始めた。
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