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お通し代わりに冷ややっこを出し、とりあえずだし巻き卵でもと卵を何個か取り出した。その背中で二人の会話を聞いていると、なるほど三宅が聞き上手だということが分かる。孝夫のくだらない話に、いちいち相槌を打ったり、驚いたようなそぶりを見せたり。
顔だけでなくこういうところがモテる秘密なのだな、などと思いながら有希子は卵をボウルに開ける。それを溶きながら、卵焼き用のフライパンを熱し始めた。白出汁を入れた溶き卵の三分の一をフライパンに入れると、ジュ―っという音と共に卵が堅くなっていく。それを手早く巻くと、二回目の卵液を入れた。
そうやって一つ目の卵焼きを終えると、今度は違う味の卵焼きを作る。孝夫は白出汁も好きだが、青のりを入れた卵焼きも好きだった。おつまみによし、弁当によし、おにぎりと一緒にちょっとした軽食によしと、有希子の食卓にはよく上がる料理だ。
初めて三宅が訪ねてきたときも、同じように卵焼きを焼いた。青のりが入っているのは少し珍しかったのか、眉を上げて有希子の焼いたそれを眺めていたものだ。
「俺、青のりめっちゃ好きなんだよなぁ」
そう言って孝夫が美味しそうに食べるのを見て、三宅も口に入れる。綺麗な箸使いで一口大に切り、口に入れる前にすこしそれを眺める。そしてゆっくりと口へと運んだ。
「口に会えばいいんですけど」
そんなことを言えば、三宅は何かを確かめるように何度か頷いた。その表情がなぜか品定めをされているような気がして、居心地が悪そうに有希子は腕をさする。しかしすぐに有希子の方に振り向き、にっこりとした笑顔で美味しいと言ったのだ。
「いやぁ、孝夫さんはよく奥さんの料理が美味いって自慢してたんですよ。ほんと、美味しいです。予想以上」
会社でそんなことを言っていたのかと少し恥ずかしい気持ちと、純粋においしいと言ってもらえた嬉しさで有希子の頬が少し赤くなる。その他の料理をどれも美味しいと言ってくれたので、とりあえずは安心したのだった。
話題は会社の話から趣味の話に変わったようで、二人は三宅の所属しているフットサルチームの話をしている。三宅はどうやらアウトドア派らしく、特にスポーツが好きなようだった。
「孝夫さんもどうです?」
「いやぁ、俺は運動音痴だから」
一方の孝夫はインドア派である。しかしそれではインドアの趣味があるというわけでもなく、ただの出不精も手伝って休みはゴロゴロテレビを見て終わるのが常だった。
「そういうのは有希子の方が好きなんじゃないか?」
いきなり話を振られ、有希子は手を止めて振り返る。すると三宅の視線とかち合った。拳で口元を隠しているが、その人差し指はしきりに唇を撫でている。
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