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その後はキャベツの塩昆布和えや、レンコンとブロッコリーの味噌焼き、本当は明日のマーボーナスに使おうと思っていたナスも焼きナスとして出した。二人ともあまり酒は強くないので、二時間もすればお開きとなる。
「ごちそうさまでした」
酔っぱらった孝夫をリビングに残し、見送りのためについてきた有希子に三宅がそう告げる。満足してもらえたようで、有希子はにこりと笑った。
「いつも突然連れて来るものだから、ちゃんとしたものが用意できてないんですけど」
「全然! どれもすごく美味しかったです」
靴を履いた三宅とそんな会話を交わしていると、ふとその視線が気になった。眦が下がった、とろんとした視線。お酒のせいだ思うのだが、イケメンの無防備な表情というものはそれだけで他人をドキドキさせてしまうものだ。
「本当に、いつも孝夫君に付き合わせちゃって」
有希子は視線を反らし、ついでに後ろを振り返る。するとそこからでも、ダイニングテーブルで潰れる寸前の孝夫の姿が見えた。うつらうつらと舟をこいでいる姿は、少し頼りないが可愛らしい。
じっとその姿を見つめていると、ふいに見送りの途中だったこと思い出す。
有希子が振り返ると、三宅のその表情に有希子は顔を強張らせた。三宅は眉間に皺をよせ、キリキリと音が鳴りそうな歯をほど食いしばっていたのだ。しかしそう見えたのは一瞬で、すぐにいつもの爽やかな笑顔を見せる。
「いいえ、僕の方こそお世話になってます」
何事も無いようなその口調に、先ほどの顔は見間違えだったかと自分を納得させる。もしかしたら欠伸を噛み殺そうとして、そんな風に見えてしまったのかもしれないと。あんな憎悪のような表情を見せる理由がないのだから。
「でも、有希子さんも幸せ者だ」
「え?」
「孝夫さんみたいないい人と結婚出来て」
三宅が口の端を吊り上げて言った。それはなんだか含みがあるような物言いで、有希子は引っ掛かりを覚える。そして有希子を見下ろす視線は、同僚の妻に向けるにはあまりに感情がこもったものだった。
「……、そうですね」
有希子はそう答えるのが精一杯だった。
やはり、三宅は苦手だ。何を考えているのかよくわからない。まるで精巧な仮面をかぶっているようだ。しかしその視線だけは、隠しきれない何かを秘めている。目は口ほどに言うとはよく言ったものだ。しかし有希子には、その感情が何なのかはわからなかった。
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