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幼少期 9
私は、驚いて泣くのをやめた。
悦子は、憎たらしくてたまらないとう表情で、私を見下ろしていた。
悦子は、私がぐずぐずしてペースを乱していることが、不愉快極まりなく、許せなかったのだ。
私は、蝶も怖いが、悦子の般若のような形相も怖く、結局、声を出さずに涙を流しながら、恐怖を抑え込んで道を歩いた。
悦子は、このあとも、何度も、怖かったり困ったりして泣いている私に向かって、同じセリフを吐いた。泣いている娘の気持ちを汲むとか、娘を助けるという行為は、絶対にしなかった。
そのたびに、私は、悦子にとって都合の良い言動や態度以外は許されず、受け入れられないということを学習させられた。
あるいは、悦子は、こう言う時もあった。
私が、自分の気持ちを伝えたくて、でも、悦子が取り合ってくれないのでむずかると、悦子は、勝ち誇ったような薄ら笑いを浮かべて
「亜紀子が怒ったって、お母さん、ちっとも怖くないからね」
と言うのだった。
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