胸痛

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「な、なに? やってるの・・?」 止まっていた時間というか、止まってしまった自分の脳が動き出す。 声を出すことができた。目の前の子供をちゃんと認識することができた。 ボサボサの髪が耳を覆っていて、男のコか女のコか、はっきりしない。 そして、改めて息をのんだ。 子供の右目は青く腫れあがっている。ボクシングの試合後の敗者の様。まぶたで塞がれ、右目は視界がないかもしれない。左目だけで、自分を上目遣いで見上げていた。 年齢はいくつだろう? 10歳ぐらい? 「・・ここで何してる?」 「ごめん・・なさい」 よかった。言葉が通じた。ちゃんと会話ができそうだ。 「うん、わかったけどさ、どうして、ここにいるの? 君の家じゃないよね?」 「ごめん、なさい」 「うん・・・」 二度目の謝罪の声は、聞き取れないくらいに小さかった。 「怒ってるわけじゃないよ」 いや、本当に、心臓が止まるってぐらい驚いただけで、ここの住人でないし、物件のオーナーでもない自分に、怒る理由なんて何もない。 「ねぇ、どうやって入ったの?」 「・・・窓から」 少し、落ち着いてきたのかな。ちゃんと答えてくれた。 「そっか、窓開いてたか」 カーテンが閉められているから全く気づかなかった。 それから、この子、細い手に汚れたスニーカーを握りしめていた。ちゃんと靴を脱いで、上がっている。 「ここ、もしかして、君の秘密基地?」 自分がちょっとふざけて聞いた問いに、「?」って顔をした。 「・・・家に居たくない時、ここで・・」 自分に対し、子供は必死に説明する言葉を繋いでいた時だった。 「ぶつくさ、何言ってるんだ? 問題ないか? そっち・・・」 様子を見に来た内田さんが、目を丸くする。言葉がつまる。 「何? その子?」 そう尋ねられても、自分も困った。 「うーん、なんでしょう?」
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