ある委員会の広報誌より

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 他にも、後ろ暗いからこそ、やめられないことはたくさんある。  酒。賭博。性産業。いずれも度が過ぎれば身を亡ぼす。いや、だからこそ、人は抜け出せないのだろう。  お気づきであろうか。  これらのことは、すべて未成年者には禁止されているということを。  子どもには許されないことが、大人には許されるのだ。  背徳感という名の快楽が、待っている。  では、成人にだけ許される究極の快楽を、これから説明しよう。  それは、一つの招待状から始まる。招待状には宴の日時と場所が記されている。  宴の場所は時間内なら出入り自由。しかも参加費は無料なのだ。  招待者は国家。  国がわざわざ非才なわが身を宴に招いてくれる。  これほどプライドをくすぐることがあろうか。招待に応じない手はないではないか。  せっかくなので招待を受けてみよう。宴は、朝から夜まで、全国のあちこちで開かれている。  招待状だけを持ってそこに行けばよい。  会場は豪華なホテルということはない。大体、古い学び舎だったり、集いの場であることが多い。  それがいいのだ。  かつて友と戯れた場所である人もいるであろう。幼なじみと鉄棒でどちらが先に逆上がりができるか競った日々を思い起こすのもよい。  よく知る集いの場であれば、いつもとは違う厳かな雰囲気を味わうのもよい。  宴の時以外、まったく縁のない場所であるなら、それも別に楽しみがある。  この国の未来を担う子どもらが育まれるところなら、彼らが生き生きと走り回る姿を思い浮かべてはいかがであろうか。  集いの場であれば、この国を長年支えてきた人々が、フラダンスや中国語のレッスンに励む様子を想像してみてはどうだろうか。  そのような嗜好がなくても、会場の片隅に置かれた謎の木のはしご-肋木(ろくぼく)と言うそうだ-などを見つけてほくそ笑むなど、いくらでも発見はある。  宴の本番はこれからだ。  厳かで静寂に包まれた会場に足を入れたら、招待状を出そう。  招待状と引き換えに、貴婦人のような滑らかな肌触りを持つ物体と、炭素を固めて(くる)んだ細い棒を渡される。  宴で騒ぐ者はいない。  ここは、国家の儀式の中でも、厳密さを要求される最高儀式の場だ。  パイプオルガンの荘厳な楽音の響きが欲しいところだが、それは、心の中だけにとどめておこう。  手の中にある貴婦人の肌。滑らかで弾力のある感触が何とも言えず心地よい。  永遠に愛でたいところだが、この厳粛な宴の儀式ではそうもいかない。  参加者の挙動はしっかり監視されている。  だから、監視員が不振に思わない程度にとどめておこう。  それも宴の楽しみの一つだ。
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