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13:逃れられるなら
与えられる快感に目が眩んで、もっとして欲しい、なんて、ばかなことを思ってしまった。
「っなあ、も、だめっ、だからぁ……ッ」
「ふは、ちゃんと言葉になってないですよ?」
にっこりとほんとに純粋に笑う綺麗な笑顔を向けられて、俺は多分、こんな状況に不釣り合いなその顔に、更に欲情したらしく。
震える腕を突っ張りながら後ろを振り向いて、ゆるゆると腰を揺らして。
「……っぁ、どうしたら、ひぁ、ん、もっと、気持ちいい……っ?」
そんな、恥ずかしすぎる質問を、してしまっていた。
「……っ、」
一瞬で兄ちゃんの顔に余裕がなくなったのが分かった。
案の定、思いっきり煽ってしまったらしい。
そう気付いた途端に、我に返った俺はハッとする。
だけど、前言撤回して弁解する前に、先に行動にでたのはやつのほうで。
「ひぁ……んんっ!」
濡れそぼったそこから、ずぽっと音を立てて指が抜ける。
何もなくなった後ろが少しだけ、寂しい、なんて思ってしまって。
ゆらり、また、腰が動く。
「すみません……。まだ解す必要があったんですが、我慢できそうにないです」
ひた、と後孔に当たる、指でも舌でもない、熱くてぬるついたそれ。
兄ちゃんの唾液のせいで濡れて滑る穴に、しっかりとした質量を持ったものが宛がわれて。
──血の気が引いた。
今しようとしている行為が一気に現実味をおびて、怖くなる。
けど、そんな俺の気も知らずに、ぐっ、とゆっくり入ってくる、大きな塊。
「ぁ゙、ぃぁあ゙……っ!」
「っ、力を抜いて、息、吐いて下さい……っ」
「むりっ、むりぃ……!」
痛みで身体が軋む。
呼吸さえまともに出来なくて、息が詰まった。
こんなの、無理だ。
痛い、痛い、あつい……っ!
充分に解れていないそこは兄ちゃんを拒んで、明らかに変に力を入れてしまってるのが自分でも分かった。
だけどそれをコントロールするほど慣れてなければ、後ろを使ったこともない俺は、どうすることも出来ずにただ枕を握りしめるだけ。
「ひ、ひぁ……い、いたぁ……ッ」
締め付けが凄いんだろう、苦しそうに眉を顰める兄ちゃんには悪いけど、俺だって死ぬほど痛い。
今までどうやって息してたか、どうやって力を抜いてたも分からなくて、べそべそと鼻をすする。もはや半泣きだった。
「大丈夫、大丈夫ですから……、力、抜けますか?」
「っむり、ひィ、ぃんっ」
弱々しい声でふるふると力なく首を振る情けない俺。
兄ちゃんだって苦しいくせに。
余裕なんてないって顔してるくせに、やつはどこまでも爽やかで優しかった。
「……では逆に、力を入れられますか?」
「っへ……?」
「内側じゃなくて外側に、です。そのほうが傷付かないですし、痛くないと思うんで……」
痛いのは、嫌だ。
敏感な分、俺は痛みにも弱くて、ちょっと転けて血が出たくらいでも、泣きたいのをいつも死ぬ気で我慢してる。
だから、この痛みがなくなるなら。
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