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チッチッチッチ
秒針に追い立てられ、長針の一歩に心音のボリュームが上がっていく。
通学の電車で何時も一緒になる、あの人の事を考えただけで胸がドキドキする。
息が苦しくて怖いくらい。
制服に着替えてブラシで髪を梳かし、跳ねた毛先をスプレーで整える。
「大丈夫。大丈夫」
何処も乱れてない。
不安気な顔の女子高生が鏡の中から私に無言で訴える。
「今日こそ言わないと」って。
誰にも打ち明けられないこの思い。
勇気を出さなければ。
ずっとドキドキは止まらない。
「行ってきます」
秘めた思いを隠すように、私は元気な声で告げると家を出た。
駅のプラットホームで電車を待つ間。
線路上を走る電車の音と連動して、頭が痛むほど高鳴る鼓動。
ホームドア、電車のドアが続いて開いて車内に乗り込む。
もうダメ。
スカートをギュっと掴む。
落ち着いて。
あの人は今日も同じ車両に乗ってるんだろうか。
「……あ」
私は小さな声を上げた。
あの人だ。
やっぱり。
今日こそ──
私を見てる。
その存在を近くに感じるだけで震えてしまう。
揺れる満員電車。
今日こそ言うんだ。
勇気を出してその人の方へ顔を向けた。
そしてスカートを捲ろうとした手を掴むと大声で叫んだ。
「この人痴漢です! 」
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