02)碧い海の幸せ

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02)碧い海の幸せ

碧い海の底で、人魚の大家族は今日も様々な楽器を奏でながら演奏会を開いていた。光に輝くような音と透明感のある柔らかい歌声が、暗い海の底に一筋の灯を燈す。 祖父母、両親、6人の兄弟が毎日音楽を奏でながら、賑やかに過ごしていた。その音楽は海で過ごす魚達や全ての生物を幸せな気持ちにしている。 6人兄弟の末っ子の蒼は、毎日歌の担当だった。家族の中で一番歌が上手い。男の子ながら伸びやかでハイトーンで少し濡れた感じがする、唯一無二の声が特徴だ。そしてその声は、全ての生物を惹きつける。 「蒼、今日も凄かったぞ!」 長兄の翠が蒼に激励の言葉をかけると、一斉に拍手が起こる。 蒼は大切な家族と大好きな音楽を奏でられた事、褒められた事、海の仲間に感動を届けられた事を実感した瞬間が極上の幸せとなっていた。他の人魚達、魚や鯨やイルカ達など、あらゆる海の生物達が幸せそうに舞い泳いでいる。 「みんなの音が良かったからだよ。ありがとう」 蒼は満面の笑みで、家族にお礼を言う。笑顔でハイタッチを交わし合う事も、人魚ファミリーの恒例となっていた。 蒼は大好きな家族と、ずっと音楽を奏で、歌い続けるものだと思っていた。 1人の女性と、人間界の海で出逢うまでは…
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