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04)絶望の中の出会い
蒼は疲労困憊の身体を砂浜に這わせながらも、倒れていた影に辿り着いた。
指先に触れた瞬間、冷たい感触なのに
何故か不思議な暖かさが迸るのを感じた。
「すみ…ま…せん」
蒼は倒れていた影に話しかけるも、反応がない。
表情は暗闇に包まれ見えない。月も雲に隠れてしまい、様子もわからない。
声が小さかったかな?
「すみませ!大丈夫です…か?」
疲労困憊の全身を振り絞り、大声で叫び腕を叩いく。
カサッ…と少し指先が動いた気がした。
その瞬間、月にかかっていた雲が流れ、月燈が影を照らし、表情まで見えた。
長い髪は海に濡れ、見開いた綺麗な瞳は蒼を捉える。
その優しい瞳と合った瞬間、蒼の心に温かさが芽生えた。
「あ、あの…大丈夫ですか!?」
女性は蒼の問いかけに、少し微笑んだ。
嫋やかで寂しげな表情に、蒼の中に何とも言えない想いが芽生える。
「…生きて…たのね」
女性は消え入りそうな声で呟く。
「どうしたん…ですか?」
蒼は何のことかわからず、訊き返す。
「あたし…生きて…」
「え?」
蒼は月夜に照らされた、女性の華奢な手首を見て驚いた。
無数の赫い傷。中には血に染まり深そうなものもあった。
「どうしたんですか…その傷…早く手当しなきゃ」
蒼は尾鰭の一部を取り、女性の傷に当てる。
「えっ!?あなた…」
女性の問いかけを無視して、蒼は夢中で止血する。この尾鰭は傷の手当てに効果があり、不思議な性質を持っている。
女性は不思議そうに蒼を見つめるが、今は女性の傷を治すのが先だ。放置していたら最悪は命に関わる。
蒼は女性の傷に尾鰭の一部を当てると、傷はスッと消えた。もう痛みはない。
「ありがとう…」
丁度月燈が2人の顔を照らす。
蒼はあどけない表情を見せ、女性は少し幼さが残る表情に翳りを纏っていた。
「痛くないですか?」
優しく問いかける蒼に、女性は泣き出した。
蒼は一瞬驚くが、少しでも悲しみが癒されてほしいという思いで、そっと抱きしめた。
その瞬間、女性の辛さが一気に蒼に伝わり、全身に強い痛みが走り苦しくなった。
(この人…すごく痛い思いしたんだね…)
蒼も一緒に泣いた。
その痛みは全身に突きさる程だった。
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