3人が本棚に入れています
本棚に追加
06)現実と、絶望と
「おまえ、茜に何したんだ!」
男は蒼に殴りかかり、蒼は草むらに飛ばされた。
その男、実は茜の彼氏なのだが、蒼は初対面なので知る由もない。
男の体躯は蒼よりずっと大きく、威圧感があったが、蒼は屈しない。
(違います…茜さんは倒れてて!助けて!)
蒼は睨みつけながら必死に叫ぶが、声が出せないので伝えることができない。
「何やってんだ、こいつ…」
男は蒼を一瞥すると、侮蔑するようにつぶやいた。蒼が何か訳のわからん事している、としか思っていなかった。
茜に呼びかけて青ざめた。全く反応しない。
携帯を取り、どうやら救急車を呼び、助けを要請し、救命救急を施す。
蒼はその機材が「人と連絡を取るもの」と何となく想像していた。人間の世界にいく前に様々な道具を教えてもらっていた。
蒼には茜を救う方法がわからず、なす術もなく黙って見守るしかなかった。
「おい!なに見てんだよ!こっち見んな!邪魔だからあっちいけ!」
男は蒼を怒鳴ったが、今の蒼には何もできないので口をつぐむ。
蒼はもどかしい気持ちを抑えて、その場から離れた。入れ違いに救急隊が入る。蒼は彼らが茜を助ける人だと認識していた。
(茜さんが…助かりますように)
愛する人の無事を祈る気持ちと
祈る事しかできないもどかしさと
蒼は様々な思いが交錯させながら、彷徨い歩き続けた。
最初のコメントを投稿しよう!