宅配業者にドキドキさせられてるんだが

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宅配業者にドキドキさせられてるんだが

 メゾンドラクネルは玄関の右側にトイレと風呂、左側に洋室があり、玄関をまっすぐ進むとダイニングキッチン、その隣に洋室がある2DKの作りになっている。  その玄関の左側の洋室の中で、サングラスとマスクで顔を隠した立高(たてこう)盛夫(もりお)は、ドアに耳をつけて玄関の様子を盗み聞きしていた。  『早く帰れよ!』と念じながら。  「ごめんね〜。もうちょっとで来るからここに居てね〜。」と娘に話しかけてる宅葉の声に『荷物壊してんじゃねえよクソ業者がっ!』心の中で毒づく立高。    ドキドキ脈打つ心臓とドクドク滲み出る汗が立高の緊張を高め、立高の隣りに座り込み、青ざめた顔で震えている足立(あだち)綾子(あやこ)に突き付けたナイフも震えていた。  立高は俗に言う空き巣だった。  足立母娘が出掛けたのを確認してから侵入したのだが、忘れ物でもしたのか突如帰宅した足立母娘と鉢合わせしてしまい、反射的に所持していたナイフを突き付けてしまい、図らずも居直り強盗になってしまったのだった。  「騒いだら刺すぞ、そこに座れ。」静かにそう言い、母娘をナイフで脅しながら座らせて、その後に玄関から退散するつもりだったが、もう少しで玄関ドアというところでインターホンがなり、慌てて洋室に母娘を押し込んだのだがその時に音を立ててしまい、仕方なく娘に応対させた。  それで今の状況である。  そうこうしているうちに「あ、所長!ここです!」との宅葉の声が聞こえてきた。  「何やってんの〜?荷物いつ壊したの〜?」と宅葉の声とは違う男の声が聞こえ、それに答えるような「所長〜、俺積んだ時は何ともなかったんですよ〜。」少し不貞腐れているような宅葉の声が続けて聞こえた。  宅葉に所長と呼ばれた男の声が「申し訳ございません。私こういう者です。」と言っている。どうやら娘に挨拶をしているようだ。  その後に続いた男の言葉に立高は絶望した。  「謝罪したいので、お母さんが帰って来るまで中で待たせて頂いてもよろしいですか?」  所長は立高にとって最悪の対応をしたからだった。  『帰ってくれよぉー!』立高は心の中で絶叫していた。                          
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