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記者会見
「宅葉さんお手柄でしたね!」
女性リポーターが笑顔でそう言って、コメントを要求するかのように、宅葉にマイクを向ける。
宅葉は「急便のキツネはお客様が第一です。」と本部から絶対言えと言われた会社のキャッチコピーを営業スマイルで答え、その後で「今回のお手柄は娘さんですね。」と付け加えた。
リポーターがさらにコメントを引き出そうと「と言いますと?」と問う。
「娘さんが伝票に『ドロボーいるたすけて』って書いてくれたからわかったんで、普通に自分の名前書いてたら、そのまま帰ってましたからね。」
宅葉はそう答えて自然に笑顔を浮かべる。
「それでどうされました?」
「娘さんが助けてって直接言わないから、多分誰かが人質になってて言えないんだ、犯人がすぐ近くに居るんだって思いましてね。それで会社に連絡する感じで『荷物壊したんで誰か来てくれ』って警察に通報したんですけど、そん時出た婦警さんがすぐ察してくれて『すぐ向かわせます』って言ってくれたのが嬉しかったですね〜。」
「なるほど〜、咄嗟の機転ですね〜。」
「そうそう!それで警察が来るまでに娘さんに、犯人は何人で誰が人質なのか?犯人はどこにいるのか?とか伝票の裏に書いてもらって、それで来てくれた警察の人達に『所長〜!』とか言って伝票渡して状況を伝えたんですよ。そしたらその刑事さんが『何やってんの〜?』とか言って芝居に合わせてくれて、一緒に芝居しながら中入ってって、それでリビングで良いのかな?そこのガラス窓開けて中に警察の人何人か入れてね。そん時に足音とかで気づかれないようにコップのお茶こぼしたふりしてバタバタと音立てたり大声出したりしてたんです。」
「そうなんですか!」
「それで配置完了してから、気づかれないように芝居続けながら出ていったんですよ。」
「それで安心して出てきた犯人があっさり逮捕されたんですね〜。なるほど〜。」
「上手くいって良かったです。でもやはり一番偉かったのは娘さんですね。怖かっただろうに、あんなに小さいのに泣き出したりしませんでしたしね。もし泣き出したり大声出したりしてたら、逆上した犯人が何してたか分かりませんからね。何か貰えるとしたら足立さんが家族で行けるように遊園地のチケットとかをあげて欲しいですね。」
「優しいんですね宅葉さん。」
「急便のキツネはお客様が第一ですから。」
そう言って宅葉は営業スマイルを作ったのだった。
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