小学生にドキドキさせられてるんだが

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小学生にドキドキさせられてるんだが

 宅葉(たくば)出流(いずる)はメゾンドラクネルの前に『急便のキツネ』の社名ステッカーが貼られた軽バンを止めた。  十五軒目の配達先である、ここの一階の二号室へ配達する荷物を後ろの荷台から取り出し宛先を確認する。  「ラクネルの二号室の足立(あだち)さん……良しっ!」  荷物に貼り付けられた荷札と受け取り伝票を交互に見て確認してから部屋に向かった。  昨日の再配達なので足立さんには朝の内に連絡してあり、十一時から十三時の間は在宅との確認は取れていた。  現在の時刻は十一時二十三分。今日の昼飯は何食おう?などと考えながらインターホンを押した。  「こんにちは〜。急便のキツネです〜。荷物のお届けに参りました〜。」  気持ち高目の声で呼びかけたが反応が無い。  もう一度インターホンを押して「こんにちは〜。急便のキツネです〜。」と呼びかけたが、やはり反応は無い。  「何だよ。出掛けんなら連絡しろよな。」と小声で愚痴った時だった。  ガタッと中で音がした。  「こんにちは〜。足立さんいらっしゃいませんか〜?」再度インターホンを押して呼びかけた。  カチャと鍵を開ける音がしてドアが開く。……ドアを開けたのは小学校低学年くらいの女の子だった。  少し怯えた表情で「こんにちは。」と小さな声で言うその子を見て、母親は美人そうだなと呑気に考えながら「あ、こんにちは〜。急便のキツネです。こちらのお品物になります〜。」と笑顔で宅葉は言った。  「こちらの伝票にサインかハンコをお願いします。」と伝票とボールペンを女の子に手渡して宅葉は荷物を玄関の上框(あがりがまち)に下ろした。  「……はい。」女の子から差し出された伝票を受け取った宅葉の耳にドクンと自分の心臓の音が聞こえた。  『やべえ……どうすりゃ良いんだよ?』伝票を受け取った時に気付き、頭の中で色々な考えが交錯しドキドキと動悸が激しくなる。    ……やがて意を決した宅葉は口を開いた。  「すいません!今気付いたのですが、中の商品が割れてるようで、ちょっとダンボールに染みが出て来てます。……今、会社の方に連絡して責任者を呼びますので少しお待ち下さい!」  宅葉は深々と頭を下げてスマートフォンを取り出し、操作して耳に当てた。  「あ、すいません宅葉です。実はメゾンドラクネルの二号室の足立さんに配達来たんですけど。荷物の中身が壊れてるみたいなんすよ〜。課長か所長に来て貰いたいんすけど、良いっすか?……住所は、あ、大丈夫っすか?……あ、はいはい。それじゃ頼んます。」  通話を終えた宅葉はそのまま胸ポケットにスマートフォンをしまい、女の子に笑顔を向けて言った。  「ごめんね〜。偉い人呼んだから、ちょっとここで一緒に待っててくれるかな?」  女の子は少し不安そうに黙って頷いた。  
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