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相思相愛
土曜日。
いつも統基がホテルゴールデンリバーに着いた頃には、すでに天音が立っている。
1回、天音がポロッと漏らしたことがある。
統基が来たらすぐ入れるでしょ、と。
知ってるヤツに見られたら困るのはたしかだが、ワガママ言いに来たのに逃げばっかなのは嫌だ。
「統基! 大丈夫? 好きな子にバレちゃうよ?」
まず心配してくれんのか……。
逃げは嫌だとか言いながら目深にキャップをかぶり、スマホで漫画を読みつつうつむき加減の体勢で待っていた統基は胸が痛んだ。
部屋に入ると、さっさとベッドのへりに腰掛ける。
「どうしたの?」
「今日は話だけしに来た」
「話?」
「うん」
「何の話?」
「もう、天音さんとここで会わない。ひろしのバイトの時だけ、これからもよろしくお願いします」
ペコリ、と統基は頭を下げた。
なんでこうなったのか、正直統基にはよく分かっていない。
天音が嘘をついたのが元凶だとは思っているが、天音のせいだとは思わない。
ただ、いつの間にか、天音とここで会うことに慣れて、当たり前になっていた。
「……ふーん。私のこと、ポイ捨てするんだ」
「ポイ捨てって、やめろよ」
「好きな子と上手くいったんでしょ。おめでとー良かったね」
天音が感情のない声で言う。
「いってねえよ。まだ、友達」
「まだ?」
「まだ……」
だと、思いたい。
天音さんとのことをキッパリ清算して、比嘉に告白する。
でも、俺ひとりでめっちゃ勝手に勘違いしてたらどうしよ。
言うて比嘉だもん。
告白したら、俺が比嘉のこと友達だけなんて思ってないって知ったら、せっかくここまで仲良くなれたのに、全部ぶっ壊れるんじゃ……。
友達でさえいられないのが一番嫌だ。
俺の前から、いなくならないで。
「もしかして、好きな子に私のこと話すつもり?」
「……話す気はない。正直に全部を話すのが誠意じゃないって、知ってる」
ただの自己満足。
相手を余計に傷付ける愚行。
もしも、比嘉も俺を好きでいてくれてるなら、なおさら言わないのが比嘉のためなんだ。
「じゃあ、どうして今言ったの? その顔、自信があるってほどじゃないんでしょ。私をキープしとけばいいのに」
「キープ?」
「別に私たち付き合ってるわけじゃないんだし、告白してダメだったらこれまで通り、会えばいいじゃない」
このお姉さんは何を言い出しとんじゃ。
統基は大いに驚いた。
「それはダメだろ」
「どうして?」
「あっちがダメだったからこっちって、そんなの嫌だろ」
「嫌だろって、何が?」
「天音さんが」
ふてくされた様子でニットのロングスカートの中で足をもて遊びスカートの動きを眺めていた天音は、ピタリと両足を下して統基を見つめた。
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