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フェイクな女神
入学式を終えたばかりの教室には、これから高校生活を共に過ごす新たなクラスメイトとの対面にまだ緊張感が漂っている。
そんな中で、入谷統基は椅子にまたがって背もたれを抱きかかえるようにして、友達と笑い合っていた。
ただでさえ今日初めて袖を通したブレザーが小柄でガリガリの統基の体にはゆるいのに、前ボタンをすべて外しているから余計に肩が余る。
ちょんちょんと、その肩をつつかれて、統基は振り向いた。
「あ、あの、出席番号13番は、僕の席で……」
坊主頭で黒ぶちメガネをかけた男子生徒が、うつむきがちにおずおずと申し出た。
ブレザーの前をきちんと閉め、ワイシャツは第1ボタンから留まっている。
学校指定のネイビーのネクタイまでしている男子生徒をジロジロ見て、珍しいタイプだな、と統基は思った。
統基の髪は明るく、うねっている。
両耳には、クリスタル一粒ピアスが光る。
今日は天気が良くて暑かったから、ワイシャツは第2ボタンまで開放されている。
「お前、なんて名前」
「え……津田です」
いきなりお前呼ばわりに慣れてなさそうな津田が、すっかり委縮した様子で声を震わせる。
統基に悪気はないのだが、大きな釣り目で全力で相手を見ると度々怖がらせてしまう。
「津田で13番か。俺、1番の入谷統基」
「あ、よ、よろしくお願いします」
「そんなおびえといて、ようよろしく言うたな」
「俺、14番! 箱作充里ー」
「よ、よろしく……」
白に近い金髪の短髪で身長183センチもあり、筋肉質で胸板の厚い充里が大声で立ち上がったものだから、津田はスクールバッグを抱きかかえてプルプルと震える。
「なあ、津田」
「はい!」
「お前、あの子見える?」
統基が充里の後ろの席に座る女子生徒を指差した。
中庭でのクラス発表、入学式前に教室に入った時、講堂と教室間の移動、と統基にはずっと長い黒髪の女子生徒が見えていた。
「見えるよ? もちろん」
「まじか。みんな、あの子のこと見えてないかのように動くからさあ、俺にしか見えてないんかと思った」
大きな充里の背後で、女子生徒は背筋をピシッと伸ばし、姿勢良く座っている。
「すっごい美人だよね……僕、恐れ多くてあの子のこと見れないもん」
「なるほど。直視できないからみんな避けてたってことか」
たしかに、女子生徒は統基もテレビの中でさえ見たことがないくらい、顔面が整っている。
浅黒い統基とは対照的な色白で、特徴的な丸めの目に、スッと美しく鼻筋の通った鼻、小ぶりな唇。
体は小さいのに、堂々と背筋を伸ばす姿はこれぞ高嶺の花、と思わせるオーラに包まれていた。
だがしかし、そんなもん俺には通用せん。
みんなが避けるとて、所詮は人間。
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