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「ほんと仲いいですよね、先輩たち」
私の心の呟きなど当然に聞こえない亜紀は、軽い世間話の一環だという調子で、だけど私の顔を見ないでそう言った。
「うちらの代、同期はみんな仲いいから」
「羨ましいです。朝風さん、彼女いるのかな……」
そのとき、ぴくん、と私の眉が動いた。
自分でも驚くくらい大きな反応に振動が空気を伝わるんじゃないかと思ったけれど、亜紀は涼に視線を送ったままで気づいてはいなさそうだ。
「どうだったかな。ま、社内恋愛なんて辞めといたほうがいいよ」
「……ですよね」
栗色の頭が少しだけ前に傾いた。
さっきは少し大人っぽく見えたけど、よく見ると毛先が重たげで幼い印象を受ける。
あなたじゃあんな風にキレイに結べないだろうね、結び目の名前もろくに知らないんだから。
セミウィンザーノット。
今朝、私が結んであげたカタチ。
涼の家に泊まって結んであげられるのは、私だけ。
結ばれているのは、私なの。
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