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「早く返してくださいよ・・・・」
ドア越しに女が小さな小声で訴えてきた。
「ちょっとー、ドアに触らないで」
俺は語尾を強めて言った。
「そこに居るのですね」
俺はしまったと思った。
右手でノブを掴んだまま左手でチェーンロックを掛ける。
その音に反応するかのように、
「開けてくれませんか・・・・」
と言ってまたノブを動かそうとしてくる。
「いい加減にしろよ。警察呼ぶぞ」
そう言うと、ドアノブを動かそうとする力が
フッと抜けたのが分かった。
流石に警察と言われて諦めたか。やっと静かになった。
「もう来るなよ」
俺は最後の一撃を与えた。
相当な緊張のせいで喉がカラカラになっていた。冷蔵庫からパックのコーヒーを出してカップに注ぐ。それを一気に飲もうとした時に部屋のテーブルに置いたスマホの通知音が鳴った。俺は急いで手に取ると、とにかく通知音を止めるつもりで電話に出た。
「はい、もしもし」
「・・・・」
「もしもし、誰? 悪戯電話だったら切るよ」
不機嫌さを表すようにトゲのある言い方をしてみた。
「どうして返してくれないのですか・・・・」
えっ? 俺は耳元からスマホを離した。
あの女の声だ。
嫌な予感がし、俺は玄関のほうに視線を移した。足音がしないようにつま先でそっと歩いた。
のぞき窓から外を見る。
薄暗い外廊下明かりが見えた。
「ふうーっ」
良かった。
俺は肩の力が抜ける気がした。手に持ったスマホを見る。電話はまだ繋がっていた。
「お前、どうして俺の番号を知ってる?」
女は薄ら笑うかのような声色で答えた。
「あなたのせいですよ。あなたが悪いんですよ。だから、早く返してくれませんか・・・・」
「お前、何処の奴なんだよ。何処に居るんだよ」
コンコン・・・・・
「ここに居ますよ」
腰が抜けるように俺はドカッとそこに座り込んだ。
「もしもし、もしもし・・・・」
玄関の外からも手に持つスマホからも女の声が聞こえた。俺は電話を切った。
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