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「いつも使っているコーヒー豆の入荷が遅れてしまって、湖近くにある仕入先へ、直接受け取りに行ったんです。
豆を受け取り、湖沿いの道を車で通って店に向かっていた時です。ふと途中の街灯の下に、奇妙な人影を見つけましてね。女の子でした、恐らくは5歳かその辺りだと思います。娘と同じくらいの背格好でしたので。
勿論そんな年頃の子が、雨の中傘もささずにぽつんと立っているなんておかしいと思いましたし、事実近づいていくにつれて、その子の膝から下がうっすらと消えていることに気付いたんです。……その時点で、本来なら見なかったふりをするところなのでしょうけど、うつむいていたその子の顔が、寂しそうにしていたように見えてならなくて……」
その言葉に驚きはしない。マスターは昔妻と娘を病気で亡くしたと言っていた。見かけが同じであるなら、放っておきはしないだろう。彼は人がいいのだ。
「なので彼女のすぐそばまで近づいて車を止めて、中から呼びかけてみたんです。『そこで何をしているんだい?』と……返事はありませんでしたが、それでも何かをしてくるわけでもなかったので……『もうすぐ三時になる。よかったら私の店でおやつでも食べないかい?』と尋ねてみたんですよ」
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