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「……それで、ついてきた、と」
「相変わらず返事はありませんでしたが、ドアを開けてみたら、彼女は消えて、車の中に乗り込んでくる気配がしました」
つまりあのシュークリームをほおばっているのは、女の子の幽霊、と言うわけだ。
「あの時食べさせたシュークリームがだいぶ気に入ったようで、今では来るたびに催促してきます。たまに私がうっかり用意を忘れたり、遅れたりすると、あの黒いところをダンダン! と足踏みしたり、絵やレコーダーをガタガタ揺らしたりしてアピールしてくるんですよ」
「あぁ、その目印だったのか」
絵画やレコーダーが片づけられたのは、何もなくても時折弄ってしまうからだという。外では寂しそうに立っていた、と言う話だが、そういうことをする元気のある子どもなら、それくらいの好奇心はもっていておかしくない。
「……いやいや、びっくりしたよ、いきなり見えない何かが入ってくるから。成程、幽霊なら見えないのも道理だし、お店の雰囲気が変わったのも、それに合わせたからだったわけだ。そう言うことなら仕方がない。あのモダンな雰囲気も嫌いではなかったが、無邪気な子供幽霊の楽しみには変えられないからね」
男は得心がいった、と言う態度で、やや大げさに身振りをした。だがそれとは裏腹に、マスターの表情はどこか影が差したように見える。はて? と首をかしげると、マスターは重苦しいため息をつき、またポツポツと話し始めた。
「……幽霊なら、よかったのですがね」
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