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第2話 運命の人(ジゼルside)
私の名前は、ジゼル。ジゼル・レヴェナント。
母を早くに病気で亡くしたが、残された私は父と二人で静かに穏やかに暮らしていた。
あの日、父の再婚相手の女性が、レヴェナント家の屋敷にやって来るまでは。
父の再婚相手――つまり継母は、魔女だった。
前妻の娘である私の存在を疎んだ継母は、父が不在の隙を狙って、私に呪いをかけた。その呪いによって私は人間から幽霊に変わり、生きている人間からは私の姿は見えなくなってしまった。
屋敷を追われ、誰からも存在を忘れられ。
行き場を失った私は、遥か遠くオルタナの森にたどり着いた。
そして、このあばら家を住処にし、私を助けてくれる運命の人を待ち続けている。
私にかけられた呪いを解くことができるのは、私の運命の人だけだ。
私のことを心から愛してくれる生涯唯一のその人だけが、幽霊である私の姿を見ることができる。
幽霊の核は宝石でできていて、その宝石の色がオーラとなって、私たち幽霊の身を包んでいる。
私の核は、サファイアだ。
私の姿が見えない人からは、サファイア色のオーラだけがぼんやりと見えるらしい。
運命の人に出会い、お互いに愛し合い。
私がその運命の人に自分の核を捧げることによって呪いは解け、人間に戻ることができる。
何年も何年も孤独に運命の人を待ち続け、今日やっと、その人に出会うことができた。
アベル・クラウザー様は私のお父様に似て、とても温かく優しそうな人だ。私が淹れたお茶も怖がらずに飲んでくれたし、美味しいと言ってくれた。
「アベル様、あなたが私の運命の人なのね」
「……え、なんだって? 運命?」
「いえいえ、なんでもありません! こんな家ですが、どうぞゆっくりして行ってくださいね」
ここのところ、私のことを捕えようとする幽霊狩りが次々と森にやって来るようになった。このままでは運命の人に出会う前に殺されてしまうと思った私は、昼の間に森の中を回り、石をたくさん拾い集めて来た。
武器を携えて幽霊狩りにやって来た人を見つけると、その人めがけて思い切り石をぶつけて追い払う。私の姿が見えない人たちは、突然どこからともなく飛んでくる大量の石に、さぞや驚いたことだろう。
持っていた武器を落としたまま、森から逃げた人も大勢いた。
私は彼らが残していった落とし物の武器を拾い集め、それで木を削り、ティーカップを作った。いつか私の目の前に運命の人が現れた時に、お茶をお出しするのが夢だったから。
そして今日、その夢は叶った。
手作りの不格好なティーカップなのに、アベル様は嫌な顔一つせずに使ってくれている。
「このお茶は、なんのお茶ですか?」
アベル様がカップの中を見ながら不思議そうに言った。
「そのお茶は、すぐそこの畑で育てた根菜を干して乾燥させて作ったものです。紅茶をお出しできれば良かったのですが、ここには紅茶がなくて……申し訳ありません」
「あっ、そんなつもりではないのです。とても美味しいです。ただ、少し変わった色だなと思って」
「そうなんです。淹れたばかりの時は薄茶色なんですが、少し時間が経つと青色に変わるんです」
「ジゼルさんの瞳の色のようですね」
「……あなたは、私の瞳の色もちゃんと見えるのですね」
「はい。あなたの姿が見えるということを、そろそろ信じて欲しいな」
今までこのあばら家にやって来た人たちは皆、私のことを殺そうとする幽霊狩りだった。だからどうしても疑り深くなってしまう。
「アベル様は、ここに何をしにいらっしゃったのですか? まさか、私を殺しに来たなんて仰いませんよね?」
私は恐る恐る尋ねてみる。
「ちっ……違う、違う! 私はあなたを殺したいわけでもなんでもない! ただ……本当のことを言うと、あなたの核が欲しいのです」
(私の核? 私の心が欲しいと?)
やっぱりアベル様は、私のことを愛してくれる運命の人で間違いない。私の心が欲しいのだと、こんなにも堂々と言ってくれるなんて。
私の胸の奥の心が、じんと熱くなる。
「アベル様、ありがとうございます。私も、アベル様のお気持ちに応えたいです。でも私たちはまだ出会ったばかり。まだ、心を捧げるには早い気がしませんか?」
「早い……かな?」
「ええ。私たちにはもう少し、一緒に過ごす時間が必要だと思います。もし良ければ、明日の夜にもまたここに来ていただけませんか?」
私はそう言って、テーブルの上にのせているアベル様の手に、そっと触れた。
私の手は彼の手をすり抜けてしまうから、実際には触れることはできないけれど。
きっといつか、私の心を貴方に捧げます。そうしてあなたと、この手を繋ぎたい。
そんな夢を見てもいいでしょうか?
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