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7月22日
7月22日。今日、東京でも梅雨明けが発表されたそうだ。この辺りでも晴れが続いている。もうすぐ梅雨明けが発表されるかもしれない。
和夫はシゲと朝食を食べていた。しかし、何かが違っている。いつもテレビがついているのに、今日はついてない。
「何でテレビつけないの」
「うるさいだろ?」
シゲは戸惑いながら答えた。本当は、無理心中のニュースが流れてきて、和夫がショックを受けるんじゃないかと思ってつけていなかった。和夫はそのことを知らなかった。優太の両親は生きていると思っていた。
朝食を済ませると、和夫は隣のスエの家に向かった。スエは72歳。シゲの幼馴染だ。朝からうるさいぐらいにセミが鳴いている。都会でも聞こえるが、秋平にはよく生息していて、よく聞こえた。
スエの家は30年前に息子が出て行った。夫は10年前に他界した。それ以来1人暮らしだ。でも、盆休みや年末年始になると、息子が孫とひ孫を連れて帰ってくる。その時はとても賑やかで、まるで秋平に活気が戻ったようになるという。
和夫はスエの家にやってきた。この家の前には車がない。スエは運転免許を持っていない。スエの家は実家と違って屋根が瓦で、2階建てだ。しかし、2階は帰省の時以外誰も使わないという。
「和ちゃんじゃん」
やって来た和夫に、スエは驚いた。いつもだったら盆休みや年末年始に来るはずなのに、今日は夏休みの初めから来ている。
スエは、和夫が来ると聞いていなかった。いじめを起こした事も。優太の両親の無理心中のことも。昨日の夜、スエはそのニュースを普通に見ていた。
「なんで来てんの?盆休みしか来ないんでしょ」
「あ、色々あって今年の夏休みは終わるまでずっとここにいようかと思ってるんだ」
和夫は笑顔を見せた。スエの前で暗い表情は見せられない。いじめのことも、絶対に言えない。
「そう。嬉しいわ。夏休み中、和ちゃんに会えるんだから」
スエは笑顔を見せた。夏休み中ずっといることが嬉しかった。
「ありがとう」
和夫は実家に戻った。夏休みの勉強をするためだった。来月9日の登校日までに提出するのを早くしなければ。
昼下がり、和夫は相変わらず勉強していた。普通だったら部活があるが、いじめを起こして謹慎中だ。テレビゲームをしたくても、そんな事している気分ではない。何もすることがないので、ただ勉強していた。
和夫は休憩しようと屋根裏から降りてきた。シゲはお出かけ中だったが、誤ってテレビをつけていた。テレビではワイドショーがやっていた。
「えっ!?なにこれ」
和夫は驚いた。テレビでは優太の両親の無理心中のニュースが流れている。
崖の下からセダンが引き上げられていた。その中で優太の両親が発見された。ブレーキをかけたような跡はなかったという。
和夫は優太の父が解雇になった事を知っていた。優太のいじめのせいだ。
「そんな・・・」
和夫は開いた口はふさがらなかった。解雇されたことは知っているが、まさかそれで無理心中するとは。自分のせいでこんな事が起きるなんて。
「なになに? 無理心中?」
スエだ。スエは朝食を片付け終えて、シゲの家にやってきた。
「僕の友達の優太のお父さんとお母さんだ」
和夫は大きな声でスエに説明した。和夫は驚いていて、大きな声になっていた。
「知ってんのか?」
スエも驚いていた。和夫の友達の両親だということを知らなかった。
「俺が悪いんだ! 俺がいじめなきゃ!」
和夫は頭を抱えた。和夫は自暴自棄になっていた。
「どうしたどうした」
シゲがやってきた。シゲは自暴自棄になっている和夫を見て止めにかかった。
「いじめのことはいいから、夏休みを楽しもう」
スエは和夫を慰めた。立ち直ってほしい。また元気な和夫に戻ってほしい。
「やってしまったことはしょうがないんだから、優太くんの両親の分も生きようよ」
「うん」
シゲやスエの説得に、和夫は答えた。和夫はいつの間にか涙ぐんでいた。
その夜、実家の縁側から、和夫は空を見上げていた。今頃、優太の両親は空からどんな目で優太を見ているんだろう。もっと生きたかったのに、優太のせいでこんなことになった。和夫は優太がかわいそうに見えた。そして、自分がこんなことやっていなければという気持ちになった。
「どうした?」
シゲだった。無理心中のことを知ってしまった和夫を心配していた。気にしてほしくない。見せたくない。でももう見てしまった。
「優太のお父さんとお母さんの事思って」
「あぁ、あれね」
シゲは下を向いた。優太の両親が無理心中を起こしたことが信じられなかった。でもそれが現実だ。
「こんなことになるなんて」
和夫は泣きそうになった。今日泣いたのはこれで何度もだろう。無理心中のニュースを見るたびに涙が出てくる。
「和ちゃん、気にすんな」
シゲは和夫の肩を叩いた。気にせずに夏休みを楽しんでほしい。
「でも」
「やってしまったことは仕方ないんだ。それ以上に頑張れよ」
シゲは和夫を抱きしめた。和夫は涙を流していた。シゲの優しさに感動していた。
「う、うん」
「何度も言うけど、いじめのことは何も言うな。夏休みを思う存分楽しもうよ」
「うん」
若干ではあるものの、和夫は自分を取り戻し始めた。優太の両親の分の生きなければ。
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