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レインボー社のイーリス
2120年、某国際展示場前の広場は、多くの人たちでにぎわっていた。
今日は一般消費者向けの展示会の日だ。11時開場で、現在の時刻は10時38分。広場には入場待ちの人々が続々と集まっている。
そんな中、黒髪で眼鏡をかけた人型アンドロイドが、背筋をまっすぐ伸ばしてベンチに座っていた。見た目は、大人しそうな普通の女子高生だ。ただ、よくよく見れば、大きな瞳と、高い鼻梁、薄い唇は完璧な左右対称で、人間にしては整いすぎている。
彼女はイーリス。レインボー社のIdA(イドア)である。
マスターからここで待つよう指示されているので、イーリスは言われた通り微動だにせず待っている。バックグラウンド処理もすべてシャットダウンした省エネモードだ。柔らかな春の風が、イーリスの黒髪を気まぐれに揺らす。
「あの、すみません」
ふいに、自分に声をかけられたと気づいたイーリスは、省エネモードから通常動作モードに切り替え、そちらに顔を向けた。そこには、女性が立っていた。年齢は50代後半といったところだろう。彼女は困った顔をして、展示場の地図を握りしめている。
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