駄作

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 多くのシャッター音と、キャスターの声。私には縁遠い存在だった物が、今の私を包んでいる。私は自分を取り巻いている環境に向かってゆっくりと話した。  「人間とは、めんどくさい生き物です。」    うちの環境は絶望的だった。  毎日お母さんがお父さんに殴られる。  そしてお母さんは私にごめんねと呟きながらすがり泣く。  こうなったのも訳がある。お父さんは優しかった。でも変わってしまったんだ。それは、私が高校三年生の時。  その日は普段通り学校から帰り、家に入ろうとしたときだ。  玄関に知らない女の人が仰向けに倒れていた。背中には見慣れた包丁が刺さっている。  お母さんに聞くと、倒れていた女の人はお父さんの浮気相手らしいと、泣きながら話していた。あとは予想つくので聞き流した。いや、聞く余裕がなかったのかも知れない。  私はその死体を隠すのに手伝わされた。今も見つからない事が不思議だ。  お父さんは浮気相手が死んだとも思わず、相手が逃げたのだと思い込んでいたらしい。その憂さ晴らしで私とお母さんは殴られていた。  そんな中でも私は上手くやっていたと思う。  お父さんは簡単だった。言いなりになれば殴られない。ニコニコしていれば、たまによく分からないネックレスをくれた。  一番の問題はお母さんだった。こんなお母さんでごめんねと毎日言われた。もう聞き飽きた。  お父さんは一日中パチンコに行き、お母さんは一日中布団の中ですすり泣く。  だから私は一人でなんとかした。お母さんをあやしつつ、お父さんに媚びを売った。  でも無理だった。お父さんに殴られる頻度も増え、お母さんは抜け殻になっていた。  だから殺した。  もうめんどくさかった。  周りの人からの綺麗事も聞き飽きた。  私はすぐに警察に通報した。だって。私は人殺しだしね。  私は捕まったものの、数年で出所した。      そして今に至る。なんでシャッターを浴びてるのかと言うと、私は本を出したからだ。  今までの出来事を小説風に書き、試しに応募してみると、大賞をとってしまったのだ。  もう笑いしか出てこないな。  私の人生は駄作でしかないのに、本にすると傑作だなんて。笑えるな。  なんで本書いたんだろう。またする事増えちゃった。    ……寂しい。  記者会見中なのに泣いちゃいそう。お母さん達を殺すとき、あんなに覚悟したのに。なんで今更思い出すんだ。    あー、めんどくさっ。      
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