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「大体幽霊自体はそんなに珍しいものじゃない、普通に生活してるしね。死んだと気付いてない人も多いんじゃないかな」
「ただ普通の人と違うのは」
「次の日を跨げないってことくらいかな。その日をそうとは気付かず延々繰り返すんだ」
「彼女たち見ない顔だったからね、ちょっと調べてみたのさ。春先に近所で女子高生が巻き込まれる事故があった、恐らくはその被害者だ」
言い終わると先生は少し物憂げに窓の外に目をやった。
「そんな……でも、今ので成仏しましたよね」
「あくまで帰しただけだからねえ。けど」
「キミの力と出会ったことで変化があったかもしれない。そうだといいね」
窓からこちらに視線を戻し先生が微笑む。
「……はい」
「JKは晴れて成仏、俺はいいモン手に入れた。めでたしめでたしだな」
「さ、帰るとするわ」
僕のTシャツに包まれた人形をイシノモリさんが抱える。そのまま持って帰るんだろうか、持って帰るんだろうな。あのTシャツ気に入ってたのに。
「その人形どうするんですか?」
「空の器は勝手がいいんだよ、なんでも憑めれるからな」
「ね? 悪い人だろ」
「だからオメエに言われたかねえよ、んじゃな」
「またね、振込よろしく」
「おっと」
イシノモリさんが出て行こうとしたタイミングで先に扉が開き、危うくぶつかりそうになった。
入ろうとしていたブレザー姿の女子高生二人組が慌てて謝る。
「あ、すいませ――」
が、イシノモリさんを見て固まる二人。を見て僕も固まる。
七海と葵だった。
「ぎゃ」
「ぎゃっておい」
「ごごごごめんなさーい!!」
悲鳴に近い声をあげて逃げるように、いや一目散に逃げて行った。
「待って――」
追いかけるように外へ飛び出す。しかし彼女たちはすでに遥か遠くまで行ってしまっていて、小さくなっていく姿を呆然と眺めるしかなかった。
先生も遅れて入口までやってきて、彼女たちが見えなくなるまで三人で見送る形になった。
「先生……」
「ね?」
「成仏してないじゃないですかあああああ!!」
「いやあ、いい感じで締めたのに台無しだなあ」
「まあ、お疲れ」
姿が完全に見えなくなった後、イシノモリさんは停めてあった車に乗り込み反対方向に走り去った。
「さてさて、じゃあ今日はこれで仕舞いにしようか。キミもお疲れさま」
「あ、え、はい、お疲れさまでした」
追い出すように店の扉が閉まり鍵がかかる音がした後、目隠しのカーテンが引かれた。
一人取り残された僕はOPENのままだった扉の看板をCLOSEに裏返す。
疲れた……まだお昼前だというのにすごく疲れた。
真上近くの太陽が剥き出しになった背中を焼き、汗が流れる。
「って」
「僕、半裸で帰るんですか」
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