ビスクドール ~『少し』『不思議な』骨董品屋~

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「名前を呼ばれてドキッとする事あるだろ?」 「あれも『掴まれてる』からなんだよね」  出てきた女の子たちには目もくれず、マイペースな先生の話は止まらない。 「普通の人だとその程度でね、まあ問題はないんだけど」 「このおじさんは悪い人だから気を付けた方がいいよ」 「ね?」 「ね? じゃねえよ」 ヤクザ者が先生の視線を振り払うように鬱陶しげに腕を振る。 「えええええ?!」  度肝を抜かれる、という言葉を初めて体験した。  正直半信半疑だった。  先生が僕をからかっているのでは、という気持ちもどこかにあった。  それでももし本当なら大変な事だと思って。  しかし、本当に人形から女の子たちが現れた。  しかもなんと先生は、話のついで、とでもいう風に難なく女の子たちを救い出したのだ。 「ちっ、と思ったのによ」  魂胆を潰されたヤクザ者は悪びれもせず吐き捨てた。 「ほらほら、悪い人だ」 「うっせえ、オメエに言われたかねえわ」 「あーなんだ、あれだ」  バツが悪そうに頭を掻きながら僕に横目を向ける。 「よし、特別に俺の名前を教えてやる」 「イシノモリだ」 「好きだねえ、キミも」 「石ノ森先生みんな好きだろ」 「先生!」  この状況に驚いているのは僕だけだった。  イシノモリ?さんも全く動じていない。 「ほら、コイツも好きだよ」 「若いのに渋いなあ」 「古いんじゃねえ、原点にして頂点なんだよ」  漫画のような事態が起こっているのに、むしろ二人は漫画の話をしている。  結構なイベントが起こったはずなのに全くの日常パートだ。  呪い業界がそうなのかこの二人がそうなのか、日常茶飯事レベルが常軌を逸している、もう嫌だ。  でもだけど女の子たちは助かった。  結果良ければなんでもいい、最悪の事態は免れたのだ。  なんだかんだ言っても先生はすごい人だった。尊敬は出来ないけど。  よかった、本当によかった。  
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