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その時、女の子たちが微かに動いた。
気付いたのかと思い駆け寄ろうとして足が竦む。
人形が禍々しい気を放ち、七海と葵を再び取り込もうと引き寄せ始めていたのだ。
「せ、先生、イシノモリさん、女の子たちが!」
「女の子たちがまた人形に引き込まれてます!!」
二人がその様子を見やった後、突如イシノモリさんが先生に向かってチョキを出した。
先生がすかさずパーを出す。
「おいおい、ぼったくりかよ」
「決裂かな?」
「ったく足元みやがって。3だ。これ以上は無理だ」
「毎度あり」
こんな時にお金の話か――。そう叫ぼうとした時、先生が声を張り上げた。
「さあて、キミの出番だよお!」
全身からやる気が満ちている。満ち溢れている。
これほど頼もしい先生を見たのは初めてだった。
「は、はい! なんでもします! なんでも言ってください!」
負けじと僕もかじりつくように声を上げる。
やる気の理由が僕とは全く違うのは明らかだったが、この際どうでもいい。
そう、
「二人が助かるのなら!!」
「いい返事だ! 覚悟はいいかな!!」
「はい!!」
気持ちが高ぶり無意識に拳を固く握る。
なんとしても彼女たちを救う、そう強く決意する。
『鈍感力』がどう役に立つかは分からない。
でも出来る事はなんでもやってやる。
「じゃあ上脱いで」
「はい?」
「そのTシャツ。この子包むから」
「はいい??」
思わず吉本新喜劇ばりにずっこける。
覚悟というスターティングブロックに足を掛け、クラウチングスタートでダッシュした瞬間に足を引っ掛けられた気分だ。痛い、心が盛大に擦りむいて痛い。
なんか終始先生に弄ばれている気がする。泣きそう。
「『鈍感力』が染みついた布は耐呪性抜群、封印にちょうどいいと思わないかい」
「そんな、人をジップロックみたいに」
「上手いな。山田君Tシャツ1枚持ってって」
腕組みして見物に徹しているイシノモリさんがちゃちゃを入れてくる。
「笑点ぽく言いつつ、とにかく脱げと?」
「助けたいんだろ。さあ急いだ急いだ」
「分かりました! はいほら!」
やけくそ気味に急いでTシャツを脱ぎ、投げるように先生に渡す。
「じゃあ次は女の子たちだ」
「触れてるだけでいい、それだけで『鈍感力』の効果はある。はずだよ、多分」
「歯切れ悪くないです?!」
語尾が頼りなかったが、先生の言葉に一縷の望みをかけて、連れて行かれないようにと懸命に祈りながら、七海と葵の肩を両手で必死に押さえた。
同時に先生が僕のTシャツで手早く人形を包む。
途端に人形の禍々しい気配が消え失せ、取り込まれかけていた二人の姿も元に戻っていった。
「よかったあ……」
事が収まったのを感じ、気が抜けてへたり込む。
「まさか上手くいくとはねえ」
先生がTシャツに包まれた人形をカウンターに置いた後、安堵のため息を漏らす。
「おい、じゃあ当てずっぽうかよ」
そんな先生にイシノモリさんが詰め寄った。
「いやあ耳が痛い」
「俺は頭が痛えわ」
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