(第六章)心の鍵

1/1
前へ
/6ページ
次へ

(第六章)心の鍵

鈴音は裕貴の手を取って亜里沙の待つ自宅に連れて来た。  亜里沙はリビングのソファでテレビを見ていた。 亜里沙は裕貴の姿を確認すると、腕組みをして睨んだ。  「あのね、お姉ちゃん、聞いて欲しい事があるの。」  亜里沙は鈴音の瞼が腫れ上がっているのを見て驚いた。  「どうしたの鈴音?!  まさか裕貴が鈴音を泣かせたんじゃないでしょうね?  鈴音を泣かせたら私が許さないから!」  「大丈夫よ、お姉ちゃん。  埃が目に入っただけだから。 それより‥」  言い終わる前に亜里沙は鈴音を抱き寄せると、優しく頭を撫でた。  小さい頃、亜里沙に抱きしめられた記憶が鈴音の体をフワッと覆った。  お姉ちゃん‥ 「遅れてごめん。誕生日おめでとう。」  そう言うと裕貴は一つの箱を亜里沙に差し出した。  「誕生日、忘れてなんかないよ。 これ、手に入れるのに時間かかってしまって。亜里沙がずっと欲しがってたやつ。 ごめん。亜里沙。遅くなって。」  お姉ちゃんはお誕生日を忘れられたのがショックで怒っていたのだ。  それが原因で喧嘩を‥  この景品って、お姉ちゃんへのプレゼントだったんだ。 「時計をプレゼントすると恋人と同じ時間を共有出来るらしい。  俺はこれからも亜里沙と同じ時を歩みたい。  だから留学はしない。  ずっと亜里沙の側にいる。」  亜里沙は号泣していた。  鈴音は笑顔で亜里沙に向き直ると、 「はい、お姉ちゃん!仲直り! 2人なら悲しみは半分、嬉しい事は2倍。 でしょ? 裕貴くんにとってお姉ちゃんは大切な人なんだから。」 と言って亜里沙を抱きしめた。  亜里沙は号泣しながら鈴音を抱きしめ、鈴音は更に強く亜里沙を抱きしめた。  『そういう風に分けたり倍に出来る人の事を大切な人って言うの。  そういう人に会ったら、その人を大事にしてね。』  私にとって、喜びも悲しみを共有してくれる人。  その人は、両親でもない、裕貴くんでもない。  お姉ちゃんだった。  お姉ちゃんなら私の為に、裕貴くんを譲ってくれるかもしれない。  そして、お姉ちゃんは自分の気持ちを心に仕舞い込んでしまうだろう。  だから、これでいい。  5分間の恋人。  大切な思い出が出来た。  鈴音の目から一筋の涙が溢れ落ちた。  さようなら、私の初恋‥  そう心で呟くと、 鈴音はその想いを心の奥底に仕舞い、 カチャリと鍵を掛けた。 「あなたの好きな人が、 あなたの大切な人の恋人だったら、 あなたはどうしますか?」 (おわり)
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加