(第二章)姉、そして彼

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(第二章)姉、そして彼

 野々宮亜里沙(亜里沙)。  私がお姉ちゃんに最初に会ったのは私が9歳の時だった。  母親の再婚相手の娘がお姉ちゃんで、当時、お姉ちゃんは12歳だった。  その時私は泣いていた。  理由は思い出せないけどものすごく悲しかったのを覚えている。  母は私を泣き止ませようと、叱りつけていた。  でもお姉ちゃんは違った。  お姉ちゃんは、私の前にやって来てこう言った。  「今日から宜しくね。鈴音ちゃん。 泣きたい時は我慢しちゃダメよ。 お姉ちゃんの胸で泣くといいわ。 ずっと抱きしめていてあげるから。」  顔を上げると天使のような笑顔で両手を広げているお姉ちゃんがいた。  その優しい笑顔に包まれたくて、抱きついて泣いた。  お姉ちゃんは頭を撫でて泣き止むまでずっとそうしてくれてた。  きっとお姉ちゃんも泣きたかったのだと思う。  でも私のためにその気持ちを心の奥底に仕舞ってくれた気がする。  お姉ちゃんによく言われた事がある。  「2人なら悲しい事は半分になるし、楽しい事は2倍に増えるの。  4人なら悲しい事は4つに分けられるし、楽しい事は4倍に増えるの。  そういう風に分けたり倍に出来る人の事を大切な人って言うの。  そういう人に会ったら、その人を大事にしてね。 これから私達家族がそういう大切な人になっていけたらいいね。」って。  お姉ちゃんがお友達と遊んでいる時、1人で遊んでいた私を呼んで、一緒に遊んでくれた。  私の好きなお料理が出てくるとこっそり私に「ナイショね」って分けてくれた。  私はいつもお姉ちゃんの愛情を感じていた。  私の大好きなお姉ちゃん。  あれから6年。  お姉ちゃんは高校3年生。  私は中学3年生。  私達が通う茜学園は中高一貫の進学校で、 彼氏の裕貴くんはお姉ちゃんのクラスメイトだ。  彼もお姉ちゃん同様優しい。  裕貴くんは中学からお姉ちゃんと付き合っているので、私が小学生の時からよく知っている。 いつも3人でデートに行ったっけ。  私がまだ裕貴くんを知らない頃、山で迷子になり動けなった私を、お姉ちゃんと一緒に探しに来てくれたのが裕貴くん。  暗闇でうずくまって泣いていた私を抱き抱え、山を降りる姿はまるで王子様。  これが私の初恋だった。  その後、お姉ちゃんの彼氏だと紹介され、死ぬほど辛かったのを今でも覚えている。  あれから会うたびに裕貴くんへの想いは募っていったけど、この恋心を打ち明けることは一度もなかった。  ずっと心に仕舞っておくつもりだった。
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