(第三章)恋人

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(第三章)恋人

 「さあ、行こう!」  裕貴は爽やかな笑顔を見せると、鈴音の手を取り、裕貴が座っていたベンチの前に連れて来た。 ベンチの前にはイベントのポスターが貼ってある。  「裕貴くんどこに行くの?」  裕貴はポスターを指差した。  「コレを見たから恋人になってあげるって言ったんだよね?」  鈴音はポスターを見る。 「『ベストカップルSHOW』。 応募資格:現在付き合っている事。 ゲーム:❶心の相性クイズ❷体の相性ゲーム 制限時間:各5分 商品:ブランドの腕時計」  「バイト代じゃ買えなくて、でもどうしてもこの時計が欲しくて。 スズちゃんは恋人のふりをして俺に合わせてくれれば良いから」  「え?」  何度もこのポスターの前を歩いてるからイベントがあるの知っていた。  でも恋人のいない鈴音には関係無いと思い、内容までは見ていなかった。  そうか、この景品が欲しいために彼女役が必要だったんだ。  まさか告白がこんな形になるとは思わなかった。  勇気を出して言ったのに。 しかし留学する裕貴へのプレゼントを手に入れる為に出場しようと考え、頷いた。  イベント会場は商業施設の中央の広場にある。  二人はその隣の仮設テントの中に用意されたパイプ椅子に座って呼ばれるのを待っていた。  出場する他のカップルはもちろん本物のカップルなのでイチャイチャと楽しそうだ。  鈴音はとてつもない寂しさに襲われていた。  運営委員から簡単な説明を受けると、程なくイベントが始まり、出演のカップル5組が舞台に上げられた。  司会者が裕貴&鈴音ペアに聞いた。  「とってもカワイイ彼女さんですね!  これからゲームで相性を競うわけですが、意気込みはどうですか?」  マイクを向けられた裕貴は、 「もちろん僕たちは誰にも負けませんよ。 なあ、鈴音!」  裕貴は答えを促すように鈴音にウインクする。  鈴音って‥言ってくれた‥  「はい!」  鈴音は勢いよく手を上げた。  場内から笑いが起こった。  「なんて初々しい彼女さんだ! その調子で元気いっぱい頑張ってください!」  鈴音は恥ずかしさでゆでだこみたいな顔になっていた。  出場者は一旦舞台から下げられイベントの流れについて説明があり、各ゲームのやり方とポイントについての説明があった。 司会者が緊張している鈴音に声をかけた。  「大丈夫ですか?かなり緊張されてますけど。」  鈴音は無言で頷く。  司会者は緊張をほぐすように質問した。  「お二人は付き合ってどれくらいですか?」  「えーと、今さっき‥」  「‥で、8年になりました!」  裕貴は慌てて訂正する。  「では、今日が二人が付き合った記念日だと?」  「そ、そういうことになります、かね?」  「おお!何ということでしょう!二人の記念すべき日がこのコンテストの日に当たるなんて! ぜひ今日は頑張ってください!」
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