始まりは一通のメールから

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「協力して欲しいんだ。誘拐事件を解決するのを」 時計が20時30分を過ぎた頃、ようやく浅野宮が姿を現した。 本人曰く「急患が入った」との事。 「…本当急で無茶な頼みするね、睦広は」 「それは分かってる、ごめん」と、早く同意を貰いたいがために謝る。 「えーと、まずその誘拐事件とやらの詳細聞いてもいい? それわかんないと、こちらとしては答えが出せないよ」 確かにそうだと心の中で呟き、持ってきておいた事件の資料を浅野宮に渡す。 比較的簡単にまとめているため、地頭のいい浅野宮ならすぐに理解できるだろう。 「……小学生男子誘拐。これ誘拐だけ?殺人とかは起きてないわけ?」 それなりの時間をかけ、じっくりゆっくりと資料に目を通し、ようやく読み終えた浅野宮の口から出た言葉は予想外だった。 「あぁ、まだな。今は誘拐だけで済んでいるが、犯人の行方は分かっていない。 これからなにか仕出かすかもしれない」 軽く身震いをする。それと同時に、また質問が飛び交ってきた。 「この誘拐された子の名前とかって教えて貰える?」 「あぁ、教えられるが…ちょっと待って」 お次は分厚い付箋だらけの資料を取り出し、"被害者"と書かれたプリントを渡す。 「竹谷奏(たけやそう)くん…」 浅野宮の顔が珍しく青ざめている。 「もしかして心当たりあるのか? 聞いた事あるとか、知り合いだとか」 「…………おれの病院で先週まで入院してた子だよ。 すっかり元気になって退院してった子……」 「え」 青崎がかける言葉を必死に探していると、浅野宮が口を開いた。 「そうくんはね、ちょっと脳の神経が狂っちゃってて。 病院嫌いなのに、『しんや先生ならあんしん!』なんて言ってくれててさ」 涙ながらに話す浅野宮の姿を見て、青崎は背中を摩ってやった。 そうだったのか、と言う同情心?のようなものから、 浅野宮のせいじゃない、と言う励まし?の気持ちなどが色々と入り交じって、 おかしな感情が生まれていた。 「無理に話そうとしなくていいんだ、大丈夫」 既に息が浅くなってきている浅野宮が、過呼吸になってしまう前に 青崎は自らの席を立ち、彼の隣へ寄り添ってはそっと抱きしめる。 これで安心してくれるのかどうかは分からないが、今はそうするしか方法が思いつかなかった。 その後、彼の顔を見ることなく、家までかえった。 正確に言うと、彼の顔を見る余裕がなかったのだ。 〖協力してくれるなら、返事くれ。いつでも待ってる〗 彼と彼の病院の患者…。何か関係があるのだろうか。 それだけがどうも気掛かりで、その夜は浅い眠りにしかつけなかった。
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