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始まりは一通のメールから
まだ梅雨入りしていない、微妙な空気の東京の街中を、青崎睦広は平然とした表情で歩いていた。
先日ニュースに取り上げられていた「小学生男子誘拐事件」。その担当となったのが、この耆宿警察官である。30歳とそれなりの年齢だが、警察官として経験深く、頼れる存在と職場の間では有名だ。ルックスも良いため、独身の彼は女性社員から特に注目を浴びている。
「ここであってるよな」
誘拐事件の担当を任されたものの、運悪く同じ担当の者は使えない人ばかりだった。毎日遅刻か休み。そんな人達に構っているほど暇ではない。青崎は警察官になってから、これといって仲の良い人が出来たわけでもなかった。そのため何か困り事があれば、決まってここへ助けを求めに行く。
「こんにちは、青崎です。浅野宮先生、今お時間ありますか?」
「あぁ、はい。今ちょうど休憩時間なので。少々お待ちください」
ここは精神科病院。主に小さな子供の精神状態を治したり改善したりする。少々小児科に近い。
正面玄関から受付へと慣れた足取りで進む。
青崎はここを何度も訪れ、対応してくれたナースもすんなりと彼を通してくれる。
受付で数分待っていると、奥から人影が迫ってくるのが見えた。
「浅野宮、話あるんだけど」
「おぉ、どうしたの?」
浅野宮慎也。精神科医。青崎が警察官になってから知り合い、互いに理解し合える唯一の存在だ。2人の距離感は幼馴染かのように近く、親密である。浅野宮のほうが2つ年上だが、青崎は気軽な口調で話し、敬語は使わない。
「ちょっと話があってさ、結構大事な話___」
「あー、ちょっと今は長話出来ないかも。今日の20時、会える?」
浅野宮は抱えていた様々な資料を綺麗にまとめあげ、また新たな資料を探し出そうとしていた。話をするのであれば、彼が精神科医としての仕事を完全放棄し、話を聞く体勢になってもらわないと困る。大切な話をするのだから。
「…そうか。あぁ、会えるけど」
「なら20時、駅前の喫茶店で」
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