0人が本棚に入れています
本棚に追加
「協力して欲しいんだ。誘拐事件を解決するのを」
時計が20時30分を過ぎた頃、ようやく浅野宮が姿を現した。
本人曰く「急患が入った」との事。
「…本当急で無茶な頼みするね、睦広は」
「それは分かってる、ごめん」と、早く同意を貰いたいがために謝る。
「えーと、まずその誘拐事件とやらの詳細聞いてもいい?
それわかんないと、こちらとしては答えが出せないよ」
確かにそうだと心の中で呟き、持ってきておいた事件の資料を浅野宮に渡す。
比較的簡単にまとめているため、地頭のいい浅野宮ならすぐに理解できるだろう。
「……小学生男子誘拐。これ誘拐だけ?殺人とかは起きてないわけ?」
それなりの時間をかけ、じっくりゆっくりと資料に目を通し、ようやく読み終えた浅野宮の口から出た言葉は予想外だった。
「あぁ、まだな。今は誘拐だけで済んでいるが、犯人の行方は分かっていない。
これからなにか仕出かすかもしれない」
軽く身震いをする。それと同時に、また質問が飛び交ってきた。
「この誘拐された子の名前とかって教えて貰える?」
「あぁ、教えられるが…ちょっと待って」
お次は分厚い付箋だらけの資料を取り出し、"被害者"と書かれたプリントを渡す。
「竹谷奏くん…」
浅野宮の顔が珍しく青ざめている。
「もしかして心当たりあるのか?
聞いた事あるとか、知り合いだとか」
「…………おれの病院で先週まで入院してた子だよ。
すっかり元気になって退院してった子……」
「え」
青崎がかける言葉を必死に探していると、浅野宮が口を開いた。
「そうくんはね、ちょっと脳の神経が狂っちゃってて。
病院嫌いなのに、『しんや先生ならあんしん!』なんて言ってくれててさ」
涙ながらに話す浅野宮の姿を見て、青崎は背中を摩ってやった。
そうだったのか、と言う同情心?のようなものから、
浅野宮のせいじゃない、と言う励まし?の気持ちなどが色々と入り交じって、
おかしな感情が生まれていた。
「無理に話そうとしなくていいんだ、大丈夫」
既に息が浅くなってきている浅野宮が、過呼吸になってしまう前に
青崎は自らの席を立ち、彼の隣へ寄り添ってはそっと抱きしめる。
これで安心してくれるのかどうかは分からないが、今はそうするしか方法が思いつかなかった。
その後、彼の顔を見ることなく、家までかえった。
正確に言うと、彼の顔を見る余裕がなかったのだ。
〖協力してくれるなら、返事くれ。いつでも待ってる〗
彼と彼の病院の患者…。何か関係があるのだろうか。
それだけがどうも気掛かりで、その夜は浅い眠りにしかつけなかった。
最初のコメントを投稿しよう!