2人が本棚に入れています
本棚に追加
この世界は、優しさというものが欠けてしまったのだろうか。これほど歪んだ世界になってしまったのだから、きっとそうなのだろう。この世界には優しさが足りない。だから、こうやって些細なことでニュースでは大きく取り上げられるし、それについて議論が持ち切りになるのだ。
「優しさが足りないんだろうな……」
「え?」
「何でもない」
私はまた数枚ポテトチップスを取ると、ソファから立ち上がり、自分の部屋へと向かう為に階段を上る。
おまじないなんて、信じないけれど。彼がこの呪いから立ち上がれるおまじないを。そして、この世界が少しでも優しくなるおまじないを。神様、どうか私にください。
──ゴロゴロピッシャーンッ!
雷が落ちる音と共に、姉の甲高い叫び声が耳に届く。辺りの電気がパッと消え、姉の「停電!」という叫び声が聞こえた。停電か。願いが叶った。私はフッと笑うと、スマホのライトを頼りに仕方なく姉の所に戻る。姉は震えた様子で毛布をかぶりながら、私の顔を見て安堵の息を吐いた。
「良かった……」
「ビビり過ぎだよ」
「だって停電だよ? 怖いでしょ」
「すぐ収まるよ」
私はソファに座ると、真っ暗になったテレビの画面にニッコリ微笑む。外では雨音が相変わらず強く鳴っていた。ザーザー、と静かになることなく降り続けている。
ああ、何だかあの雷は神様からのギフトのような気がしてきた。この世界が少しでも優しくなれるように、いらないメディアの情報を消し、雷に怯える人々が支え合うように仕向けたんだ、きっと。
おまじないって呪いとも書くけど、やっぱり呪いだけじゃないんだな。幸せさえも運んでくれる。それを今、痛感した。
最初のコメントを投稿しよう!