優しさが足りないこの世界は。

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 別に、この選手の味方をしている訳じゃない。ただ、刺青を入れてしまったせいで、こんなにも呪いのように非難されるのは可哀想だと思うのだ。非難した奴らは、のうのうとこの世界で生きていて、眠れない夜には言えないことを枕に叫んで、スッキリして笑うことだってできる。それなのに、この選手はそうすることすらも出来ない。  蝶々の刺青なんて、別に悪いことじゃないじゃないか。むしろ、カッコいいと思う。そう言うと、まるで自分が反社会的勢力の味方をしているように聞こえると思うが、私は特に味方も敵も、そういう感情は無い。一番、厄介な中立の立場だ。 「この選手、どうなるんだろうね」  姉がどこからか持ってきたポテトチップスの袋を開けると、バリバリと食べ始める。まだお昼前だというのに、スナック菓子を食べるのはどうかと思うが、これも休日の特権だ。許そう。 「謝罪会見開くのかな?」 「開いても、非難する人の気持ちは収まらないよ。ほとんどが好奇心でやってるんだから。そりゃ、本当にダメだと思って非難する人もいるけど、このネット社会の今はさ、周りが非難してるから自分も、みたいな輩が大勢いるんだ。本当に嫌なことだよ」 「それは、そうね」  私は姉が持つポテトチップスの袋から数枚取り出すと、口の中に放り込む。お昼前にお菓子を食べるという罪悪感よりも、今は何だか怒りの方が強くなっている。怒り、というのがどこへ向いているのかは分からないけれど、多分大規模な人数に対してだと思う。  数日前、とある動画クリエイターが亡くなったニュースが報道された。その時も、そのネタを悪用する人が大勢いた。本当に、歪んだ世界になってしまったと思う。技術が発達すれば、発達するほど、それを悪用する人が増え、犯罪が起き、大袈裟に言えば戦争だって簡単に起きてしまう。
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