古高俊太郎との出会いと別れ

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古高俊太郎との出会いと別れ

「幸之助。この方は私の同郷の人間だ。古高俊太郎(ふるたかしゅんたろう)(1829~1864)さんといって、私と志を同じくする人だ。いや、まとめ役といってもよいかもしれぬ」  純一郎は、自分に柔らかい笑顔を向けている古高が、それほどの人物だと聞いて驚きを覚えた。 「常々、丹羽さんからお聞しています。若松幸之助殿でしたな」  古高は十三歳の少年に丁寧な言葉づかいで話しかけた。 「今日は災難でしたな。日々、平穏で順風な暮らしをめざすことは、少しも悪いことではありませんよ」  そう言って横目で正雄を見た。正雄は気まずそうな顔で下を向いた。古高は相変わらず笑顔を絶やさない。 「ただ世の中というものは、何もしないでいれば少しもよくはならないものです」  古高の言葉に、正雄が一瞬で元気を取り戻した。 「その通り。幸之助、だからお前はな……」  古高はおかしそうに正雄を見た。 「実はですな。この人も私も聡明ではないので、結局は刀とか鉄砲とか戦争(いくさ)をするしか能がないのです」 「ふ、古高さん。それは……」 「幸之助さんは我々よりずっと賢そうに見える。日々の合間に、少し世の中に目を向けてください。あなたの聡明さで、きっと何か大きなことが出来る筈ですよ」  危険なことに首を突っ込み、命を落とさなくても、何か立派なことが出来る。  古高の確信に満ちた言葉は、純一郎にとって救いとなった。  思わず古高に大きくお辞儀をしていた。 「そうだろう、丹羽さん」 「まあ、そんなところではないのか」 「幸之助殿の将来を是非とも見届けたいものですな、丹羽さん」  古高は笑顔で幸之助の前に現れ、笑顔のまま去って行った。  自分でも何か大きなことが出来るかもしれない。  それをなるべく早く見つけて、自分の志としたい。このとき、純一郎は、漠然とそう思った。  織田純一郎十三歳。まだこれからである。  純一郎晩年の聞書きとして、丹羽正雄にお説教をされたことや古高俊太郎を紹介されたと語ったことが残されている。  後の従四位・丹羽正雄については親戚なので間違いない事実と思われるが、古高俊太郎との出会いについては今のところ純一郎の証言以外に記録はない。  
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