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私は書斎に入り、いつもの様に原稿を書くが、恋愛小説の進みは遅い。
ふと顔を上げると、上杉さんがコーヒーを持ってやって来た。
「進んでますか…」
私は無言で首を横に振った。
「私にわかる事なら訊いて下さいね」
上杉さんはパソコンのモニターを覗き込んだ。
「ああ、元カノの存在を聞いてしまった時の心境ですか…」
上杉さんは机の前にあるソファに座った。
そんなシーンを書いていた。
忘れられない元カノの存在を聞いてしまった時の女性の心境。
そんなモノがわかる筈も無く、そのシーンでもう一時間程、止まっていた。
「私にも、忘れられない元カレが居るんです…」
上杉さんは静かに言った。
私はゆっくりと顔を上げてソファに沈む様に座る上杉さんを見る。
平然を装うが、その話を聞いて良いモノかどうか、私は心中、穏やかでは無かった。
「それですよ…。先生の動揺…」
上杉さんは立ち上がって私の傍に戻って来た。
ん…。
私はやはり遊ばれているのでは…。
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