ホワイトムスクの朝雨

13/27
前へ
/27ページ
次へ
私は書斎に入り、いつもの様に原稿を書くが、恋愛小説の進みは遅い。 ふと顔を上げると、上杉さんがコーヒーを持ってやって来た。 「進んでますか…」 私は無言で首を横に振った。 「私にわかる事なら訊いて下さいね」 上杉さんはパソコンのモニターを覗き込んだ。 「ああ、元カノの存在を聞いてしまった時の心境ですか…」 上杉さんは机の前にあるソファに座った。 そんなシーンを書いていた。 忘れられない元カノの存在を聞いてしまった時の女性の心境。 そんなモノがわかる筈も無く、そのシーンでもう一時間程、止まっていた。 「私にも、忘れられない元カレが居るんです…」 上杉さんは静かに言った。 私はゆっくりと顔を上げてソファに沈む様に座る上杉さんを見る。 平然を装うが、その話を聞いて良いモノかどうか、私は心中、穏やかでは無かった。 「それですよ…。先生の動揺…」 上杉さんは立ち上がって私の傍に戻って来た。 ん…。 私はやはり遊ばれているのでは…。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加