ホワイトムスクの朝雨

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「終わった恋愛はすべて失敗の恋愛かと言うとそうじゃなくて、その恋愛があったからこそ、次の恋愛が出来る。そんなモンでしょ…。だからどんな恋愛でも無駄な恋愛なんてない。私はそう思います」 上杉さんは窓の外を見ながら言う。 「そりゃ、この年になれば、失敗した恋愛の幾つかは誰でも持ってますよ。特にそれを誰かと付き合う度に共有する必要も無いと私は思います。勿論、訊かれたら話す事もあるかもしれませんけど、それが良いか悪いかは相手次第ですよね…」 今日の上杉さんは良く喋る。 私も窓の外を見た。 オリーブの樹が雨に濡れながら揺れている。 「今の私は、その過去があるからこその賜物であって、過去が無ければ今の私も存在しないんです。先生だって…」 上杉さんは私の方を見て微笑む。 「先生だって、過去の恋愛が無ければ、私が惹かれる事も無かったのかもしれませんし…」 私はその言葉に、上杉さんに視線をやる。 惹かれている…。 私に…。
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