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こうなったら最後の手段だ。壁を壊せばよい。薄い板壁で相当古いから壊せるはずだ。貴重なさざえ堂を破壊するのは気が引けるが仕方ない。二、三歩後退して思っきり蹴った。ズーンと足が痺れて倒れてしまった。力が壁に伝わらず全て跳ね返された感覚だ。起き上がって拳で軽く叩いた。コンコンと硬い音がした。ど、どうなっているのだ。床を踏みしめてみた。先程までは体重を掛けるとギーギーと音がしていたのにビクともしない。まるでさざえの硬い殻の中に閉じ込められてしまった感覚だ。
心臓の鼓動が早くなり恐怖が全身を支配した。
「きょうじゅー、たすけてくださーい」
叫んだが表から反応はない。
そうだ、スマホだ。こんな山奥まで電波が届くはずないと思いつつも最後の望みで教授に電話した。指が震えてうまく操作出ない、何度もやり直した。諦めかけた時呼び出し音が聞こえた。
繋がった!
「きょ、教授出られません。助けてください」
「残念だが助けられない」
「えっ、助けられないってどういうことですか、お願いします助けてください」
私は涙声になっていた。
「君はなぜ私の制止を振り切ってしまったのだ。このさざえ堂には入り口はあっても出口が無かった。だから止めたのだ」
「えっ! そ、それって……」
「おばあさんが言ってた通り帰れないのだよ。宿の女将も話してくれただろう、山菜採りが十年に一人くらい行方不明になると」
「このさざえ堂はもしかして……」
「そう、十年ごとに人を食べで生き永らえているのだ。電話が繋がったのはさざえ堂が君の最後の願いを叶えてくれたんだよ」
私は絶望のあまりスマホを落としてしまった。
「それともう一つ、君の名字は海藻、さざえの餌は海藻なんだよ」
落としたスマホから教授の声が聞こえた。足元から私の体が少しずつ溶けてゆく。
(完)
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