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思ったより古いさざえ堂だ、もしかすると江戸中期、いや安土桃山かも知れない。日本最古という言葉が頭に浮かんだ。スロープに沿ってゆっくり上る、一足ごとにギーッと床が軋む。壁には様々な観音様が安置してある。雨露に晒されていないから極彩色の痕跡を残している。わずかに残る絵の具を分析すれば年代が解るだろう。ドキドキしながら歩いていると最上部に着いた。天井は見事な六角形。絵画が描かれているが剥げ落ちて何の絵かは判別が難しい。そこかしこに御札が貼ってある。
眺めていると、美人レポーターの質問に答えている自分の姿が脳裏に浮かぶ。
「先生、今回の発見をどのようにお考えですか」
「はい、このお堂は我が国最古のさざえ堂です。建築史だけでなく仏教史にも多大な影響を与える貴重な発見と言えるでしょう」
「発見のきっかけは何ですか」
「好奇心と情熱です」
自分が一躍有名になると思うと、どうしてもにやけてしまう。
後は下るだけ。下りのスロープは一転地獄の様相になっている。業火に焼かれ苦しむ人、餓鬼や鬼が今にも動き出して襲ってくる感覚だ。最後にひときわ恐ろしい閻魔の姿があった。もう直ぐ出口だろう、待っている教授の顔を想像すると可笑しさがこみ上げてくる。
「入るんじゃない」と言った手前、何事もなく戻った私をどういう表情で迎えるか。
「教授、何事も起こりませんでした。しかも大発見です」と言ってやろう。
下りが終わると不思議なことにまた上りになった。首を傾げつつスロープを登る。
「えっ」
入った時と同じ観音様だ。そうか入り口と出口が一緒なのだ。小さな入り口だから見逃したのだろう。私は戻ってみた。だが入り口も出口も見当たらない。
もう一度スロープを登って行くが景色は最初と同じ。下りも全く同じで違いは餓鬼や鬼の姿が一度目より恐ろしく感じたことだけ。どこを探しても出口はおろか、入ってきた入り口さえ見当らない。
落ち着け、落ち着くんだ。と言い聞かせた。何かからくりがあるはずだ、隠し扉があるのかも知れない。慎重に周りを見渡すが、御札の貼られたくすんだ板張りの壁と観音様が続くだけだ。壁や床を叩いたり押したりしながら登るが扉は見当たらない。下りのスロープも同じ。途方に暮れてその場に腰を下ろすと、閻魔が笑っているように感じた。
「一体全体どうなっているのだ!」
大声を張り上げるが、虚しく反響するだけ。
気を取り直し一時間ほど出口を探したがどうしても見つからない。
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