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私は病院のベットで目覚めた。
後から聞いた話によると、裏山が崩れペンションは土石流に流された。
私たちの客室は海のよく見える東端だったので夫と息子は奇跡的に軽傷ですんだ。だが、一階中央の食堂はもろに土石流が流れ込み海岸まで押し流されてしまった。何メートルも積もった土石の中からの救助は困難を極め、誰もが生存を絶望視していたが、大きな岩と岩の隙間に私は挟まれていたようだ。
だが、一月も意識が戻らず、夫は医者から覚悟するように言われた。でも懸命な治療のお陰である日意識をとり戻すことが出来た。
目ざめた時、夫と息子が窓の外を眺めながら話す後ろ姿が目に飛び込んできた。
「私に聞かせられない内緒話しているの?」
言葉を投げかけると二人同時に振り向いた。飛んできた息子が「ママ、ママ」と抱きついて嗚咽を漏らした。私は包帯の巻かれている腕で息子を思いっきり抱きしめた。止めどなく涙が流れる。見つめる夫も泣いている。
「オーナーは」と訊くと夫は悲しく首を振った。
「今だに見つからない。残念だけど海まで流されてしまったかも知れない」
何も知らない夫は神妙な表情をしている。
あの窯から聞こえた声は業火に焼かれた人々の怨念。
三百年掛けて私を見つけ出した魔物だ。必ずまた現れるだろう。
だが、この腕に抱きしめている息子だけは渡しはしない。どんなことがあっても。
(完)
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