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小さく笑った花嫁に蓮は天を仰いだ。深い深い感嘆のため息と共にこぼれ落ちたのは、大凡”言葉”とは形容し難い声だ。
少し離れた場所から、満面の笑みを浮かべた田中が二人を見つめている。
「…つーか、手紙はダメでしょ」
「びっくりした?」
「びっくりも何も、俺泣いちゃったじゃん…」
「うっそ」
「うそじゃねーって。見て?目ぇめっちゃ赤いから」
「…ホントだ」
への字に曲げられた唇。すんと、蓮は鼻を啜った。
「あぁ、もう、何か今もまた泣きそう…」
「ご新郎様、こちらをどうぞ」
「すんません…」
田中から差し出されたハンカチを受け取り、目元を拭う。その大きな…けれども今は何処か小さく感じる背中を、柚子はぽんぽんと撫でてやった。
「挙式までまだお時間があるので、お部屋でお待ちください」
アトリウムで何枚か写真を撮り、再びブライズルームへと戻った柚子はするりとレースのカーテンを開いた。
しとしと、しとしと。降り注ぐ雨音に耳を傾けながら見上げる空は、低い灰色だ。
昔から、雨は嫌いだった。
傘を差すのは面倒だし、通勤は大変だし、湿気で纏まらない髪をどうにかするのに朝のスタイリング時間はいつもの倍。ヨレたメイクを直す回数だって増える。
けれど—…。
「なぁ見た?さっき写真撮った時、雨がさ?こう、ヴェール?みたいにすげー綺麗でさ!」
そう言って子供のようにはしゃぐ彼と一緒なら、きっと好きになれる気がした。
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