2人が本棚に入れています
本棚に追加
頬をなぞる生温かな風。
それと共に鼻を掠めた独特な香りに、柚子は天を仰いだ。間も無くして降り始めた雨が、三歩先の足元の色を変えていく。
「…だから雨は嫌いなんだけどなぁ」
昇降口の軒先の下、そうぽつりと呟いた柚子を焦茶色の瞳が見つめた。
「桂木さ、雨降るといつもソレ言ってんな」
「安藤は嫌じゃないの?雨」
傘差すのとか面倒じゃない?差しても制服濡れるし、靴下濡れるし、ローファー濡れるし、眠いし、学校行きたくないしと。
一つ二つと指折り数えていく柚子の顔は、それはもう大真面目な表情だ。
「雨降らなくても、最後の二つはお前の通常運転な気がすんだけど」
「あと髪の毛纏まらないし。纏ってもすぐ畝るし」
「あー、だから雨の日はいつも髪結んでんだ?」
パチリと瞬きする焦茶色。相変わらず低い灰色を見上げたまま、そうだよと唇を尖らせる柚子の長い髪が小さく揺れる。
「…なら、俺けっこー好きだけどな」
「…は?」
”なら”
それは一体、どういう意味なのだろうか。
怪訝そうに眉根を寄せた柚子と、安藤との瞳がかち合った。
「だってお前のレアな髪型見れんじゃん」
下げられた眉。大きく開けられた口。屈託無く笑うクラスメイトの笑顔が、きらきらと輝いて見えた。
最初のコメントを投稿しよう!