君となら。

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 しとしと、しとしと。  雨音に耳を澄ませながら、柚子はドレッサーを見つめた。金色に縁取られた大きな鏡。そこに映る自分は、何処となく緊張した面持ちを浮かべていて。 「そろそろお時間です」  柔らかな声音で掛けれられた言葉に、一つ頷く。  ゆっくりと立ち上がると同時に引かれる、座り心地の良い椅子。背の高いヒールなど普段滅多に履かない所為か、ふらふらと覚束ない足元に柚子は苦笑いを浮かべた。 「…大丈夫ですか?」 「ちょっ、と…危なかったです」 「ふふ。まだ時間ありますから、歩き方も練習しましょうね」  倒れそうになる既の所で、差し出されたのは自分とそう変わらない大きさの手で。けれども咄嗟に掴んだそれが、途轍もなく頼もしく思える。   「田中さん、ありがとうございます」 「いいえ。では行きましょう」  そう言って田中はふわりと笑った。  木製の扉に手をかけ、ゆっくりと押し開く。 「さっきお部屋に行ったら、お手紙読まれてましたよ」 「本当ですか?」 「はい」
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