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赤いベルベット調の絨毯が続く廊下を進みながら、こそりと耳打ちする田中に、柚子は照れ臭そうに笑った。歩行の妨げにならないよう持ち上げた、柔らかなチュール。それを掴む手に、力が入る。
ああ、やっぱり、ちょっと、いやかなり。
「…手紙は、恥ずかしかった、かな」
「とっても素敵だと思います!」
「そう、ですかね」
「そうです!凄く喜んでらっしゃいました!」
鼻息荒く力説する田中に諭され、突き当たりを右に曲がる。
それから間も無くして見えたのは、よく見知った広い背中だった。柚子がそうであるように。彼もまた、些か…いや、かなり緊張しているらしい。
カチコチに固まった肩。下ろされた右手のグローブが、それはもうキツく握り締められていて。
自分よりも緊張している人間を見ると、緊張が和らぐ法則…とはまさにこの事。
今絶対手汗かいてるだろうなと柚子はくすりと笑った。
「…準備は宜しいですか?」
田中のその言葉に一つ頷き、彼の名を呼ぶ。
「…蓮くん」
肩を揺らし、おずおずと振り返る黒髪。ぱちりと目と目が合ったその瞬間、彼の焦茶色が大きく見開かれた。
「………ウワァ」
骨張った手で口元を覆い、蓮は柚子を凝視する。その顔は耳まで真っ赤に染まっていて。
「…どうしよう、すげー綺麗」
「ありがとう。蓮くんもいい感じだよ」
「いい感じって?」
「…………カッコいいよ」
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