君となら。

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 頬をなぞる生温かな風。  それと共に鼻を掠めた独特な香りに、柚子(ゆず)は天を仰いだ。間も無くして降り始めた雨が、三歩先の足元の色を変えていく。 「…だから雨は嫌いなんだけどなぁ」  昇降口の軒先の下、そうぽつりと呟いた柚子を焦茶色の瞳が見つめた。 「桂木(かつらぎ)さ、雨降るといつもソレ言ってんな」 「安藤(あんどう)は嫌じゃないの?雨」  傘差すのとか面倒じゃない?差しても制服濡れるし、靴下濡れるし、ローファー濡れるし、眠いし、学校行きたくないしと。  一つ二つと指折り数えていく柚子の顔は、それはもう大真面目な表情だ。 「雨降らなくても、最後の二つはお前の通常運転な気がすんだけど」 「あと髪の毛纏まらないし。纏ってもすぐ畝るし」 「あー、だから雨の日はいつも髪結んでんだ?」  パチリと瞬きする焦茶色。相変わらず低い灰色を見上げたまま、そうだよと唇を尖らせる柚子の長い髪が小さく揺れる。 「…なら、俺けっこー好きだけどな」 「…は?」  ”なら”  それは一体、どういう意味なのだろうか。  怪訝そうに眉根を寄せた柚子と、安藤との瞳がかち合った。 「だってお前のレアな髪型見れんじゃん」  下げられた眉。大きく開けられた口。屈託無く笑うクラスメイトの笑顔が、きらきらと輝いて見えた。
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