<1・始。>

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 ***  今の小学生に“将来なりたい職業は?”と尋ねると、真っ先に名前が挙がるのがユーチューバーという仕事である。今の子供達にとって、カリスマ動画投稿者はまさに憧れの存在なのだった。実際、私達三人もまたカリスマゲーム実況者の動画にハマり、彼等に憧れて自分達でも動画投稿してみようと思ったクチである。残念ながら、私達は三人揃って凄まじいゲーム音痴であったため(RPGゲームのマップで迷子になる、技術がなさすぎてボスがとっとも倒せない、レースゲームで逆走は当たり前、などなど)秒で諦める羽目になったのだが。  で、結局“やっぱり自分達といったらホラーでしょ”で落ち着き、三人でホラースポットを取材してオカルト動画を製作し、投稿するという形になったというわけである。それもなかなかうまくいかず、既にネタ切れにもなりつつあって大変困っているというわけだが。 ――そもそも、ホラー動画一つ作るにしてもこんなに大変だなんて思ってなかった。  はあ、とため息をつく私。  視聴者は、自分が体験できないことや知りえないことを代わりに実演してくれるようなスリリングな動画を求めているものである。しかし、だからといって犯罪行為に走るわけにはいかない。困ったことに、リクエストされるものの中には“いや、それは無理だから”という内容のものも少なくないのだった。入れば不法侵入で裁かれそうなものとか、器物破損で逮捕されかねないようなことなどをさすがにやるわけにはいかないのである。  確かに、自分達ができない危険なことを代わりにやってみてほしい、安全圏からホラーを見せて欲しいという気持ちはわかる。だからって“八幡の藪知らずの中に入って取材してくれ”とか言われてもそんなの無理に決まっているのだ。  そもそもホラースポットの撮影で危ないのは、何も幽霊に限った話ではない。それこそ廃墟を探検するとなった場合は、崩落などの事故の危険がついてまわるのである。幽霊を撮ろうとしたら、階段がすっぽぬけて撮影者が事故で死亡して自分がおばけになっちゃいました!では洒落にならないのだ。 ――法律と安全を守った上で、過激なキャッチコピーをつけたタイトルとサムネで視聴者を釣る。しかも、動画一本の長さが長すぎるとクリックしてもらいづらくなるって問題もあるから、コンパクトにまとめないといけないし……。  スキマ時間に動画を見たい、そう思っている視聴者は少なくない。動画の長さが十分を超えるとそれだけでクリックの心理的ハードルが高くなる。五分ごとに、そのハードルがさらに大きくなっていく。ゆえに、出来れば自分達も一本の動画は十分以内、それが無理でも十五分以内でと決めているのだった。
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