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「例えば、直近で起きたのはびしょ濡れの死体が発見された事故だったっけなー。なんかね、その日はすごいどしゃぶりの雨が降ってたんだって。で、どういうわけかエレベーターの中に雨漏りしてて、水がたまっちゃってたみたいっていうの」
「何で!?」
「いや、だからわからないんだって。止まっちゃってるエレベーターを修理しにきた人がドアをこじ開けたら、中からざばーって汚水が流れだしてきたんだってさ。その中で、団地の住人の女の人が溺死した状態で沈んでたっていうの。不思議でしょ?いくら土砂降りの雨の中つっても、エレベーターの箱の天井まで到達するほど水が溜まるなんてことある?しかもその死体はただ溺死したってだけじゃなくて、全身に水吸ってぶくぶくに膨らんだすっごい酷いもので……」
「いやいやいやいや!詳細説明しなくていいから!やめて!?」
私はぶんぶんと首を横に振った。考えたくもない。だが、それを見ていた琴音が非常に言いづらそうに“でも”と続ける。
「……イラスト担当、愛奈先輩ですよね。ある程度話は聞いておかないといけないんじゃ」
「うぐ」
それを言われるとつらい。私達は三人で役割分担が決まっているのである。取材は三人で行うが、BGMや効果音、資料などを集めるのは琴音でありイラストなどを描くのが私、そして最後の編集作業が真里菜の担当なのだった。私もけして画力があるわけではないが、残念ながらあとの二人はそのあたりが壊滅しているため私が描かざるをえないのである。
確かに、そのへんの話をさーっとマイルドに流すためには、イラストを使って説明するのが一番簡単であろうが。
「天井に、雨漏りがするような隙間なんかなかった。しかも、女性が閉じ込められていたのはどう長く見ても数時間程度。なのに、彼女の死体は一カ月以上水の中で放置されたとしか思えないほどの腐敗ぶりだったって話。……ね、面白いっしょ?」
そんな私をよそに、真里菜はどこまでも楽しそうである。
「というわけで、そのエレベーターをアタシらで取材しようってわけ。一応、多少何かが起きてもいいようにがっつり準備してさ、行ってみようよ。今の時代携帯電話もあるんだし、そうそう酷いことなんかならないってー」
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