<2・団。>

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 ***  この団地が、というよりこの近隣には少し奇妙な点があった。  B棟の入口には、“B棟153”と書かれている。そういえば、この団地の名前も“ドグマ団地153”だった。153という番号が完全に浮いている。部屋番号でもあるまいに。 「153ってなに?なんかちょこちょこ見る数字なんだけど」  私が尋ねると、真里菜はあっさり“わかんない!”と肩をすくめた。 「なんか、この町のおまじないの数字らしいって聞いた。詳しいことは、動画編集する時にまた調べればいいよ、めんどくさい」 「ええ、結構大事なことかもしれないのに」 「仕方ないじゃん、調べものとか得意じゃないんだもん。コンコンにいつもお願いしてるから、自分では全然やらないんだってー。大学レポートもそれが嫌でいつも適当な資料まるうつしにして終わってるし」 「それでよく単位取れたね!?」  駄目じゃん、と思ったが彼女がいい加減な性格なのはいつものことである。後ろで琴音が“ほんとすみません”と小さくなっていた。今回、いつも資料集めを担当している彼女の課題が忙しかったせいで、調べものに参加できなかったのである。 「呪いのエレベーターは、こっちの奥の方。B棟自体、年輩のご夫婦が二組住んでるだけっていうし、エレベーターで誰かに遭遇するってこともないでしょ」  呆れる私をよそに、真里菜は琴音に撮影を始めるように指示を出す。私と琴音も映ることはあるが、メインでナレーションやリポートを担当するのは大抵真里菜の仕事なのだった。一番コミュニケーション能力も高く、美人でアドリブが得意だからというのが理由である。 「はーい、お待たせしました!それでは、呪われたドグマ団地のエレベーターに突撃したいと思います!さっき示した資料の通り、このエレベーターは不自然な事故が多発してるってことで有名なんですよねー」  B棟のエレベーターは、今時珍しい“全階に止まらない”タイプのものだった。十五階建にも関わらず、一階と三階、七階、十階、十二階、十五階でしか降りることができないという。上の階の方だけでもせめて全部止まってあげればいいのに不便だな、とついついツッコんでしまった。止まらないのには理由があったりするのだろうか。 「呪われていると言われるのはこのB棟エレベーターの三機のうち……はい、この一番左のものになりますね!」  ベージュ色に塗られたドアを指示し、真里菜は語り続ける。言いながら、呼出しボタンを押していた。 「このエレベーターで事故が多発しているのです。それだけではなく、何度も幽霊が目撃されています。そのせいで、ここの住人は気味悪がって一番左のエレベーターは使いたがらないのだそうで……というか、B棟そのものの住人もどんどん減っちゃって、今は老夫婦が二組住んでいるだけなんだそうです。まあ、この団地自体もだいぶ寂れちゃってるぽいかんじなんで、元々古い棟から順に人が減っちゃってたみたいなんですけどね!」
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