熱伝導

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★★★  五年前、突然妹ができた。  同い年で誕生日が一ヶ月違いの妹というのは、どうもくすぐったい存在だ。  男子特有暗黒の厨二病を彷徨っていた俺は、段々と無視とイジワルと暴言の数々を言い放った。  そんな最中でも、同い年の女子というのは、男子に比べてかなり大人だったと思う。わざとプリンを盗み食いした俺を、穂乃花は責めることもなく可哀そうな目で見ていたっけ。  暗黒期を脱し高校生になってからは、どうにか今のような『無視もしないけど、それほど仲良くもない兄と妹』という関係性を築き始められた。  いつも呆れたような顔をしながらも、見守ってくれていた穂乃花のおかげだと思う。  その頃になり、兄として初めて知った事実。  俺の妹は、どうやら可愛いと評判でモテる女子だった。 「穂乃花ちゃんって、直哉(なおや)の妹ってマジ?」 「ああ、マジマジ」 「マジかああ、血繋がってないのもマジ?」 「マジマジ、俺は母さんの連れ子、あっちは父さんの連れ子」  へえ、そうなんだ、と廊下の向こうにいる穂乃花を、じっと見つめていた可愛い子大好きカズキングはニッと笑った。 「ねえ、穂乃花ちゃん紹介してよ」 「は?」  少しだけ考えて、首筋に手をあてた。 「アイツに聞かないと、何て言うのかわかんねえからなあ」 「前もトモナリに言われてそうやってはぐらかしたじゃん。ひょっとして、直哉も穂乃花ちゃんのこと?」 「は? 穂乃花? んなわけねえだろ」  穂乃花に俺の声が聴こえないように、そっと背中を向けた。 「大体、穂乃花のこと女子なんて思ったことねえしな」 「だったら穂乃花ちゃん紹介してくれてもいいじゃん」  カズキング、マジしつこい。なんでお前みたいなチャラいやつに穂乃花を紹介しなきゃなんねえんだよ。  あのな? 穂乃花はな、今まで彼氏なんかいたことねえの!   その記念すべき第一号が、お前みたいなティッシュ一枚よりも軽そうなヤツなんか、兄として絶対認められない。 「はー? 妹の彼氏が、自分の友達とか、マジ面倒くせえから勘弁しろって」  顔では笑いながらも苛立ちマックスなのは自分でもわかっている。  搔きむしった首筋がヒリヒリとした。  風呂上がりの穂乃花が俺に気づいて廊下を半分開けてくれる。  頬がピンクに紅潮し、キレイだと思った。  穂乃花と顔を合わせる度、ここのところ何だか変だ。  ドクンと大きく心臓が波打って目を合わせられない。  すれ違う瞬間、そっと気づかれないぐらいで故意に触れてみた右手の甲。  穂乃花の温もりがじんわりと伝導した。  これが他の誰かのものになるなんて、絶対に嫌だとハッキリ思った。
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